法律

□民法雑記帳
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《我妻法学に対する評価》

加藤正信『新民法体系T民法総則』
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 我妻法学は,日本の民法学の中間集大成として,大きな影響力を持っている(略)。
 我妻法学の特徴が,具体的妥当性の確保と,判断基準性の確保とが,中庸を得た形で調和したものであること(略)。
 我妻法学のなかに,穏やかな保守主義のにおいをかぎとる者は多いであろう。ただ,この点との関連で,「国家と個人は有機的に結合された全と個との関係になるべき」との共同体主義国家観のもとに,我妻博士が民法の諸制度を理解していたことが,近時鋭く指摘されている。(略)
 先に述べた,我妻法学の穏やかな保守主義は,オールドリベラリズムや市民主義的なものではありえず,微温性をおびた共同体感覚をともなうものであった。明治期に,地方で生を受けた我妻博士の原感覚のなかに,農村共同体的な要素がはぐくまれたと考えることは,うがちすぎだろうか。
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 日本民法学をいったん中間集大成した我妻法学では中間的な立場がとられていた。【概念法学における】三段論法的な論理によって要件を相当程度に重視するとともに,【利益較量論における】結論の妥当性にも目が向けられていたのである。
 わらに,我妻法学には,種々の要件につき胃っての場合に外延が明確なかたちで定義することを避け,多少標準語で比喩的な命題を導くことによって判断基準を非硬直的なものに溶解させ,個別事案にかんして問題の解決の具体的妥当性を維持しようという発想があった。ただ,判断基準の溶解とはいっても,我妻説の場合,一見標準語的,比喩的な表現の中に――一線を画するかたちではないが――感覚的な外延が存在している。この具体的妥当性の確保と判断基準性の確保とが中庸を得たかたちで調和しているのが我妻法学の特色であり,我妻説が実務にひろく受け入れられ,通説となっていったゆえんであろう(略)。
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