法律

□民法雑記帳
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【取得時効について援用権の喪失が認められるか】
 
時効完成後に時効の利益を放棄することはできる(民法146条)が,時効利益の放棄が認められるためには時効完成の事実を知ってされることを要する。

他方,時効完成を知らないで,自己の無権利又は義務の自認をした者については,裁判例上,時効利益を享受させるのは適当でないとして,時効の利益を放棄したのと同様,時効の援用をすることができなくなる場合(時効援用権の喪失)が認められており,この点,最高裁昭和41年4月20日大法廷判決(民集20巻4号702ページ)は,債務者が,消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした事案について,時効完成後における債務の承認は時効による債務消滅の主張と相容れない行為であること,相手方においても債務者はもはや時効の援用をしない趣旨であると考えること,時効の援用を認めないのが信義則に照らし相当であることを理由として挙げて,債務者が時効完成の事実を知らなかったときでも,時効の援用をすることは許されないと解すべきである旨判示している。

そして,取得時効の事案についても,20年の取得時効完成後に相手方に権利がある旨を承認した場合であっても,その者は自己に権利がないことを自ら認めたのであり,信義則に照らし,真の権利者を保護するための時効の援用は認められないとして,時効援用権を喪失する旨の判断がされている(東京地裁平成12年2月4日判決訟務月報47巻1号164ページ等)。

問題は,取得時効に関し,いかなる場合に時効援用権の喪失が認められるかであるが,いったん取得時効が完成した後において取得時効の主張と相容れない行為をした場合には,相手方においても債務者はもはや取得時効の援用をしないものとして信義則上時効援用をすることが許されなくなることから,相手方の所有権を承認するなどの取得時効の主張と相容れない行為が存在することが必要であると解すべきである。
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