TOS+その他
□この痛みまで、
2ページ/2ページ
しんしんと降る雪。
しろい、しろい風景を引き裂くあか。
――母上!
叫びは声に成らなかった。
赤い、赤い色。
――お前なんて産まなければ良かった。
ゼロスは目を見開いた。見慣れた天井、荒い自分の呼吸――自室に居るのだと認識する。
――畜生。
短くゼロスは吐き捨てた。俺は、いつまで…
窓を開け、羽を広げる。そのまま外へ飛び出した。
気ままに夜空を飛んでいたが何気なく巨木がそびえ立つ丘を見つけそこへ降り立つ。橙色の輝きをしまい込み大木を見上げる。
「―……」
呟きは夜気に溶けた。
逢いたい。無性に。
人の気配にゼロスは素早く振り向く、果たして想い人は居た。
「…クラトス……」
見事な鳶色の髪、夜目にも白い抜けるような肌、逢いたいと切望していたひと。
「来るな!」
鋭い叫びにクラトスの歩みが止まる。
「…来ないで、くれ…今俺すげー情けない顔してんだ」
あれほど逢いたいと願っていたのに。
「泣いているのか」
「…違う」
クラトスは再び歩み寄る。白い両腕が伸びて、ゼロスをその豊満な胸へ抱き寄せる。
「ク、クラトス!?」
その行為にゼロスは慌てた。他の女性に何をされようとこのようにうろたえる事等無いだろう彼も、惚れた弱みか彼女――クラトスには弱い。
「やめてくれよ…」
柔らかい感触に思わず口をついで出た拒絶の言葉。だがクラトスは構わずゼロスの髪を撫でた。さながら母親が子供を慈しむかのように。
「…あんたにとって俺はなに?」
哀れな神子?
ただの子供?
共謀者?
問うてはいけない事だったのかも知れない。クラトスは髪を撫でていた手を止めた。
「…俺は好き。あんたが好き。」
クラトスは答えない。それを拒絶と取ったゼロスは名残惜し気にクラトスから身を離した。
「どうとも思ってないなら優しくしないでよ。」
思い出すから。
産まなければ良かったなら何故自分を庇ったの。
――母上。
クラトスはゼロスを見上げ、溢れるゼロスの涙をそっと拭う。
「…私は」
まるで死刑宣告を受けるみたいだ。自嘲の笑いを浮かべゼロスはクラトスの言葉を聴いた。
「私は、お前が好きだ」
「…え?」
「好きでもない者に心を砕く程私はお人よしではない。お前だから、ゼロスだから…。」
「…本当に?クラトス」
「ああ。」
クラトスは花が綻ぶように微笑んだ。堪らなくなり、ゼロスはクラトスを抱きしめた。柔らかい感触にうっとりとなりながら、馬鹿みたいにクラトスの名を呼ぶ。
「…クラトス。どうしよう。俺凄い嬉しい。」
「…ゼロス。」
「もう嫌だと言っても離さないからな。アンタは俺のものだ。」
こくり、と頷きクラトスはゼロスの背中に腕を廻した。
しろい、しろい雪。
それを引き裂く赤も、心を裂く言葉ももう自分は見ないだろう。聞かないだろう。腕の中の愛しいひとが、居るのならば。
想いを誓うように、ゼロスはクラトスに口付けた。
深淵のような闇を照らす月明かりだけが、ふたりをそっと見ていた。
この痛みまで、