TOS+その他
□ながれないなみだは、
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ぱたぱたと頬を濡らす温かい雫。それが涙だと、気付くのに暫くかかった。
―――泣いてんの天使様。嗚呼、ごめんな馬鹿野郎で…そんな泣くなよ。本当ごめ…ん…な…。
「ゼロス?ゼロス!嫌だ、逝かないで…!」
ひとりにしないで。
天使の叫びはゼロスに届かずに。腕の中の存在は体温をやがて失い、クラトスの涙を拭っていた腕も力を失いぱたりと地に落ちた。
無機質な空間にクラトスの悲痛な叫びだけが木霊した。
しとしとと、雨は引っ切り無しに降り続いていた。空は灰色の陰欝な塊のようだった。
リフィルはダイクの家の中から空を見上げた。重く溜息し、目を反らす。
「…あれから一ヶ月か…」
ゼロスと戦い彼を手に掛けてから一ヶ月程経っていた。無事コレットを救い出し、オリジンの封印も解放された。クラトスも命をユアンに救われ、ここダイクの家で療養中だった。
「クラトス、回復するかしら…」
身体はともかく――心の傷は。ゼロスを失った痛み。彼等が惹かれ合っていたのにリフィルは薄々感付いていた。何よりあのクラトスの嘆き。
しかし彼女は気丈にもオリジンの封印を解放する為にロイドと命懸けの決闘をしたのだ。
「………」
思案するリフィルの背後でクラトスの休む部屋のドアが開いた。
「ロイド。どうクラトスの様子は?」
「ああ、まだ目を覚まさないよ。先生、ユアンが用があるって」
「…私に?」
ロイドは頷く。
「…俺には話せないんだと」
ロイドが立ち去った後、リフィルは一呼吸置きドアを開けた。
「で。何のお話かしら」
「…クラトスの事なのだが…」
ユアンは言い淀んだ。
「はっきり言って頂戴。そんなに悪いの?容態は」
「いや。マナも幾分安定してるし、落ち着いている」
ユアンのはっきりしない物言いにリフィルは柳眉をしならせた。
「はっきり言ってと言ったわ。ユアン。」
「ああ、分かった。クラトスだが―……身篭っている。」
「……」
リフィルはぽかん、と一瞬し。直ぐに我に返った。
「な、なんですって!本当なの!」
「…嘘を付いてどうする」
「…そんな…」
「父親に心当たりはあるか?」
ユアンの言葉にリフィルははっと胸を押さえた。
ゼロス。彼しか考えられない。
「有るのだな」
リフィルの様子にユアンは嘆息し、クラトスを見下ろした。
「身重な身体で無茶をするものだ」
「嗚呼、なんてこと。ロイド達になんて伝えればいいの」
「…それは任せる。だがいずれ皆も知る所となるだろう。クラトスも無論な。」
「ええ、そうね。…そうだわ。」
リフィルは何とか気丈に持ち直し、ユアンに退室を促した。ユアンは暫くクラトスを慈愛に満ちた眼差しで見詰め、リフィルと共に部屋を後にした。
ドアを閉める音と同時に開かれるクラトスの瞼。
クラトスはゆっくり上半身を起こした。シーツを掴む手が震える。
「…私は…」
耐え切れず嗚咽が洩れた。