玻璃ノ城
□玻璃の城 2
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風が唸り声を上げ、雨が荒々しく窓硝子を打つ。
時折、雷鳴が鳴り響き、昼間のような明るさが部屋に満ちる。
「お身体に障ります。もうお休みに為って下さい」
窓際に椅子を起き、ずっと窓の外を眺めている竜二に、魔魅流は遠慮がちに声をかけた。
「ああ…」
それに竜二は気の無い返事を返しただけで、窓から視線を外しもしない。
「魔魅流、兄様から何か連絡はあったか?」
不意に魔魅流を見たと思えば、尋ねたことは兄のことであり、魔魅流は、いえ…と緩く首を横に振った。
竜二の兄は、宵口から、何処かの侯爵家主催の夜会に出掛けていて、まだ戻っていない。
兄が屋敷を出た時は、霧雨が降っている程度であったのに、時間を追う毎に、雨の降り方が激しさを増し、強い風まで吹くようになっていた。
「この嵐では、移動される方が危険です。きっと何処かでお泊りなっているのでしょう」
魔魅流の言葉に、竜二は、そうだな、と気の無い返事を返す。
「魔魅流、お前は下がっていいぞ。オレももう少ししたら休む」
竜二が本当に休んでくれるか魔魅流は疑わしく思いながらも、そんなことを言えるわけが無く、彼は苦渋に顔を曇らせながらも、はい、と答え、竜二の部屋から出ていった。
◆◆◆◆◆
朝冷えに、無駄な肉の無い痩身がぶるり、と震え、窓枠に置いた腕に顔を埋めて眠っていた竜二は、目を覚ました。
昨夜の雨風嵐が嘘のように、外は穏やかに晴れ渡り、天鵞絨(ビロード)のカーテンが開け放たれたままの出窓から、眩しい朝日が射し込み、竜二は眩しそうに目を細める。
何処からか、小鳥のさえずりまで聞こえてきており、彼は、嵐が過ぎ去ったことを知る。
昨夜、いつまでも帰らぬ兄を心配して、わざわざ窓際まで椅子を運び、彼はそこで兄が帰ってくるのを寝ずに待ち続けているつもりだったのだが、いつのまにか寝てしまったようだ。
上体を起こせば、自分で掛けた覚えの無い毛布が彼の肩から滑り、床に落ちる。
そちらに視線を向けていた竜二だったが、俥のエンジン音を聞き付け、がたっと椅子を後ろに倒しそうな程の勢いで立ち上がった。
そして窓の外を食い入るように見た彼の視界に、一台の黒塗りの俥が止まる。