雅次×竜二

笈、玩
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※魔魅流×竜二小説白昼奇譚後の話のため、魔魅竜前提。単品でも読めます。








朝、目覚めれば、頭には耳が、尻には尻尾が生えていた。




「くそっ…またかよ…っ」

猫の耳と尻尾が生えたのは、これが初めてでは無かった竜二は、布団の中で悪態をつく。
これで二度目の経験のため、そう焦らなかったが、場所が悪かった。
今、彼がいる部屋は、彼の自室では無く、他人の部屋なのだ。
部屋の持ち主は、今は不在であり、ベッドには、竜二一人が残されている。
竜二は、全裸だった。
そのことは特に問題では無かったが、竜二は、ふと珍しいなと思った。
この屋敷に滞在中は、竜二が情事後、後始末もせずに寝てしまった時は必ず、彼が起きるまでに、体は拭き清められ、浴衣を着せられていた。
しかし、今日は何も着せられていない。
だからと言って、そのまま放置されたわけではないようで、身体には一切のべたつきは無く、シーツも取り替えられている。
これはどういう意味だと、耳と尻尾の存在はそっちのけで彼が思案しているところに、ドアが開く音を、彼の4つの耳がとらえた。

「竜二、起きているのか?」

そう尋ねてきた声は、この部屋の持ち主の声で、頭まですっぽり布団を被っていた竜二は、さてどうしようかと迷う。
考えたのは、ものの2、3秒のことで、彼はベッドから上体を起こした。

「雅次、お前の仕業だろう?」

犯人相手に隠すのは馬鹿らしく思った竜二は、三角の黒い猫耳と、艶々とした毛並みのいい尻尾を布団から出し、雅次の瞳を射ぬく。

「…正確に言えば、私ではないよ」

竜二の姿は予想済みだったのか、雅次は特に驚きもせず、だが、興味深そうに近づいてくる。

「…オレにこんな姿をさせた薬か何かを作ったのはお前ではなくとも、オレに一服盛ったのは、確実にお前だろうが」

雅次に近づかれ、竜二の尻尾の毛が、警戒して逆立つ。

「ああ、その通りだ」

しらばくれるかと思われた雅次は、あっさりと自分が犯人だと認め、ベッドの上に腰掛けた。

「…あの駄犬は、お前のこの姿を見たのだろう? なのに私はまだだというのは、ずいぶん不公平だと思ってね」

雅次が、“駄犬”と忌み嫌って呼ぶ相手を、竜二はよく知っている。
それは、竜二の従弟の魔魅流のことなのだ。

「!何故お前がそれを知ってる?」

雅次の言葉に、竜二は思いっきり怪訝そうな顔をした。
一番最初に、竜二に耳と尻尾が生えた時、竜二は魔魅流と二人きりで、本家の本屋から離れた茶室にいた。
耳と尻尾が消えるまで、竜二は、茶室から一歩も出ていない上、他に気配などなかった。
だが、あの時、ちょうど“慶弔の封印”達が本家に集まっていたことを、竜二は思い出す。

「お前…“視て”たな?」

もしや、式神を使って、あの一連の出来事を覗き見していたのか、と嫌な予感に駆られた竜二は、それをそのまま声に出した。

「視ていたよ。いけなかったかい?」

竜二の問いに、雅次は、罪悪感の片鱗も感じられないような微笑みを見せる。

「お前があの時、部屋にいなかったのが悪いんだよ。…私はただ、お前を探していただけだ。まぁ偶然、面白い光景に出くわしてしまったから、そのまま視続けてしまったけれどね」

そう語る雅次の口調は、不気味なほどに淡々としたものだった。

「お前…少しは悪いとか思わないのかよ」

覗き見なんてしておいて、悪怯れることもなく、むしろ、堂々としている雅次に、竜二は心底呆れる。

「思わないよ。…私は、“変人”なのだろう?変人に、今更、道徳観を求めてもらっては困るな」

冷たい声音で雅次が言い捨てた言葉に、竜二は、魔魅流に慶弔の封印のことを説明する際に、『奴らは変人揃いだ』と言ったのを思い出す。
そんなところから見ていたのかと思うと同時に、先程から、雅次の言葉の節々に、怒りを感じ取っていた竜二は、それが原因なのだと勝手に信じ込む。
だからといって、竜二には謝る気などなかった。
自分の発言は的確であり、間違ってはいないと彼は思っているからだ。

「……もうその話はいい。それより、着るものを貸してくれ」

竜二も、そして覗き見した雅次もまた謝る気がないなら、これ以上、過去の話を蒸し返すのは不毛だと感じた竜二は、一度話を切る。

「“猫”に着るものなど必要ないだろう?」

しかし、雅次は、竜二の要望を、真顔で冷酷に切り捨てた。
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