その他

花摘み鳥と鴆
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強靭な枝には、無数の紅い芽が芽吹き、中には、早くも銀の綿毛を覗かせているものもある。

「猫柳か…」

特徴のあるその枝振りを眺めていた鴆は、その名を呟くように口にした。

「これの花の時期は春だぜ?ちぃとばかし、持って来るのが早かったな。」

まだ冬も始まって間もないこの時期に手折るのは、せっかちなように思えて、鴆は、それを自分に届けて来たささ美に視線を戻し、苦笑した。
冷たいぐらいに美しく整った顔に、眼鏡をかけ、長い漆黒の髪の毛先を、綺麗に切り揃えた彼女は、鴆の指摘を、黙って聞き流す。

「さすがにネタが尽きてきたんだろ?もう無理して持ってこなくてもいいんだぜ?」

ささ美は、鴆の屋敷に来るたびに、何かしら季節の花を手折って持って来る。
彼女がそれを始めたのがいつからだったか忘れてしまうくらい、数年の月日が流れていた。
同じ鳥の妖怪のためか、彼女を含めた三羽鴉は、鴆と波長が合う。
真面目な長男の黒羽丸は、何か用がなければ鴆の屋敷にはやってはこないが、このささ美と次男坊のとさか丸は、組の用がなくともここへやってきていた。
ささ美は、前に生存確認だかなんだか言って定期的に鴆の顔を見にくるが、とさか丸は、遊び…もといいサボりに来ていた。

「…それは、もう来るな、ということでございましょうか?」

今まで黙っていたささ美は、急に口を開くなり、淡々とした声で尋ねる。

「いや、そう言ってるわけじゃねぇんだ」

その声には、どこか冷たいものが混じっているような気がして、鴆は慌てて否定した。
毒に蝕まれた身体のため、あまり外出が出来ぬ鴆にとって、庭木とはまた違った季節の訪れを告げる草花を見るのは、1つの楽しみにもなっている。
さすが三羽鴉の中の紅一点、女性らしい心配りが嬉しかった。

「親父さんに使われて、お前自身が、忙しい身だろう? オレは、お前のことを考えてだな」

「鴆様」

話している最中に、名を呼ばれ、鴆はなんだとばかりに彼女を見た。

「また、参ります」

凛、とした声だけを残し、ささ美は、風のように、その場から去る。
ただ、一枚の艶やかな黒い羽が、ひらり、と鴆のもとへ舞い落ちた。
それを掴んだ鴆は、思案げにそれを見つめながら、しばらくくるくると指で回し続けていた。




END

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