牛鬼×鴆

桃の節句
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視界を塞ぐ大きな箱を両手を抱えた少年が、縁側を歩いている。
その姿を見つけた牛鬼は、あまりに危うい彼の足取りを案じ、彼の正面に回り込んで彼が運ぶ箱を替わりに持ち上げた。
いきなり荷物を奪われた少年は、驚いた顔で牛鬼を見上げる。
牛鬼は牛鬼で、少年の格好に驚いた。
少年は、たすき掛けした着流しの上に、白い女物のエプロンをかけ、手拭いで姉さん被りをしている。
まるで女中奉公中の少女のようなその格好は、彼の小柄な体に良く似合っていて可愛らしいが、何故そんな格好をしているのだろうと疑問が残る。
だが、果たしてそれを問うてよいか牛鬼は悩む。

「…鴆、この箱は私が運ぼう。どこまで運べば良い?」

一切表情を動かさないまま思案していた牛鬼が口にしたのは、まったく別の問いだった。

「!えっと…こっちなんだ」

牛鬼の申し出に、鴆はまた驚いてしまいながらも、彼の好意を断ることが出来ず、牛鬼の前に立って案内する。
そしてある部屋の前で止まった鴆は、その障子を開く。
障子が開かれた部屋の中には、朱色の布が綺麗に敷かれた7段飾りの雛壇がすでに組み立てられていた。

「牛鬼、ありがとな、そこにおろしてくれ」

鴆が礼を言って指差したのは、雛壇の正面であり、牛鬼はそこに箱を置く。
鴆は畳の上に置かれた箱の隣に正座し、蓋を取った。
中には、丁寧に和紙に包まれた人形らしきものが収められており、鴆は一体を取り出してその和紙を外す。

「雛人形か…」

鴆が牛鬼に見せたのは、丹精にしつらえた十二単を纏った女雛で、牛鬼の言葉に鴆は、正解、と笑ってうなずいた。

「このお雛様は、若菜様のなんだ」

鴆は女雛に扇を持たせてやりながら、若菜から雛人形の飾り付けを任せられたことを話す。

「オレ、『お手伝い』ってあんまりしたことがねェから、なんか嬉しくてさ」

雛人形を眺め、鴆はこぼれんばかりの無邪気な微笑みを見せる。

「他に手伝いをする者はいないのか?」

鴆の笑顔に、表情を穏やかに緩めた牛鬼だったが、この作業を鴆だけでするのはたいへんだろうと思い、鴆の隣に腰を下ろしながら尋ねる。

「ああ、女達は今、台所で菱餅とかお供え物を作ってるみたいなんだ。」

一体ずつ丁寧に雛人形を取り出していた鴆は、不意に牛鬼の方へ顔を向けた。
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