魔魅流×竜二

檻の中の迷宮
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絶え間なく、雨が降っている。
庭の草木やその下に蔓延る青々とした苔にとっては恵みの雨なのだろうが、5日程続く雨音は耳障りでしかなく、梅雨独特のまとわりつくような湿気も合わさって、その不快感に竜二は顔をしかめ、そして咳き込んだ。
背中を丸め、乾いた咳を何度も繰り返した彼は、息苦しさに肩で息をしながら、ザアザアと地上に降り注ぐ雨を睨む。
季節の変わり目や、梅雨の時期に、彼がひどい咳と高熱に悩まされることは毎年のことであり、いくら日々の鍛練で肉体を鍛えようとも、熱を出さずに、この時期を乗り越えたことは今まで一度もなかった。
その原因は不明。
あるとするならば…。

「狐の呪いか…」

熱で乾いた唇で、竜二はそんな呟きを落とす。
そう呟いた途端、また咳が出た。
骨が軋むぐらい激しく咳き込んだ彼は、咳で痛む喉から喘鳴を漏らしながら、縁側の柱に、ぐったりと背中を預ける。
昼間の今はまだ、微熱ですんでいるが、夜になればまた、高熱が出るだろうと、竜二はまるで他人事のように考える。
そんな中、彼がいる縁側の板張りが軋んだ音をたてた。

「下手くそ」

それは普段、足音をたてずに歩く男の、あまりにわざとらしすぎる足音で、竜二は口角を持ち上げ笑う。

「竜二、寝てないといけない」

それには特に何も言わずに、魔魅流は竜二の傍らに近寄ったまま、しゃがむでもなく、彼をただ見下ろした。

「寝るのは、飽きた」

まるで駄々をこねる子供のような言い分を、竜二は魔魅流を見上げ口にする。

「退屈、なんだよ」

もううんざりだと、竜二は顔をしかめた。

「それでも、駄目」

問答無用とばかりに、魔魅流は竜二の意見を跳ね除け、床に膝をついて彼を抱き上げる。
それにあらがうでもなく、かといって魔魅流の首に腕を回すわけでもなく、竜二は身じろぎ一つせず彼に身を任せた。
その態度は、魔魅流が運ぶのは当然だと、そして彼が自分を落とすことは有り得ないとでも言っているようなもだ。
竜二の不遜さに慣れた魔魅流は、普段以上に軽い身体を彼の部屋へと運ぶ。
竜二の部屋は、障子が開け放たれたままで、その隙間を通り、魔魅流は中へと入った。
そして布団が捲れ上がった起き抜けの布団の上に、竜二を降ろし、障子を閉めに戻ろうと身を放したが、それを竜二は彼の服を掴んで制す。

「あのままでいい。…誰も来やしないさ」

熱がある時は、必ず部屋に近づかないように下働きの者に命じていた竜二は、障子は閉めなくていいと、魔魅流の胸にもたれかかりながら話す。

「看病する人は?」

魔魅流の問いに、竜二は必要ないと短く答えた。

「鬱陶しいだけだ」

突き放すように吐き捨てた竜二は、乾いた咳を繰り返した後、ふと、遠くを見るような眼差しになり、部屋の隅をただ見つめる。
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