雅次×竜二

笈、玩
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それには、竜二の顔が完全に強張る。

「…お前…変人扱いされたぐらいで、そんなキレんなよ」

雅次の怒り具合に、唖然となった竜二は、彼の許容の狭さに眉を寄せて彼を非難した。

「私が怒っている原因は、そんなことだと思っているのか?」

竜二のその発言は、確実に雅次の怒りの地雷を踏んだようで、雅次の瞳は、すぅっと細められ、彼の声音の温度を、更に低下させることになる。

「!違うのか?」

雅次の怒りの原因は、それだと勝手に思い込んでいた竜二は、雅次の様子に、自身の予測が外れたことを知り、思わずきょとん、とした無防備な顔を晒した。

「……違うとだけ言っておくよ」

他の原因など何も思いつかないと言いたげな、竜二の心底意外そうな顔に毒気を抜かれた雅次は、眼鏡を指で上げて表情を取り繕ってから、布団の上に藍染めの甚平を置いた。

「浴衣を着せようにも、どうも尻尾が邪魔で着せられなくてな…これは、昔着ようと思って買ったものだが、はいてみたら予想以上にズボンの裾が短すぎて着ていなかったんだ。これならもう着る予定はないから、尻尾が出せるように穴を開けて来たんだが、どうだろうな?」

竜二が甚平を持ち上げ、広げてみれば、確かにズボンの尻の辺りに穴が開いている。
しかも、おそらくその辺りに裾がくるだろう上着の方にもご丁寧に穴が開いてあった。

「……」

しばらくそれを見ていた竜二だったが、着ないわけにもいかず、いそいそとそれに着替える。

「……っ…」

竜二が甚平を身につけてすぐ、笑いをこらえるような雅次の声を聞き付けた竜二は、ぴんっ!と猫耳を立たせ、むっと雅次を睨んだ。

「笑いたきゃ笑えっ!」

威嚇するように尻尾まで立たせて怒鳴る竜二の、だぼだぼの甚平姿は、まるで年の離れた兄のお下がりを着て、これから祭りにくりだそうとする稚児のように愛らしく、しかも、猫耳と長い尻尾のオマケつきで、思った以上に可愛い生き物に出来上がってしまった竜二の姿に、感動よりも何故か笑いがこみあげてしまった雅次は、片手で口を押さえながら身体を震わせている。

「笑いたいわけではないんだよ」

尻尾と耳の毛を逆立て、完全に機嫌を損ねてしまっている竜二の方へ手を伸ばし、雅次はそっと彼の頭を撫でた。

「あまりに竜二が可愛いらしくて、つい笑ってしまったんだ」

そう語る雅次の顔は、穏やかな微笑みを浮かべていて、竜二は、彼の発言は気に入らないものの、久方ぶりに見た彼の慈愛に満ちた微笑みに、何も言えなくなってしまった。

「……」

すると逆立っていた竜二の毛並みが、元に戻り、立たっていた尻尾が、ぺたん、とベッドに垂れる。
それを見た雅次は、竜二の頭から手を滑らせ、今度は彼の顎の下を指で撫でた。

「調子に乗りすぎだ…っ」

完璧に猫扱いしている雅次に、竜二はそう非難するが、それが心地好過ぎて、振り払えない。
それでもなんとかやめさせようと雅次の手を掴むが、身体の方がうずうずしてしまい、竜二は、雅次の手を掴んだまま、じっと雅次を見上げてしまう。
そのまま動かなくなってしまった竜二をよそに、竜二の尻尾は、するり、と雅次の頬を撫でた。

「「……」」

それには、二人とも同時に固まった。
長い沈黙を破ったのは雅次の溜め息で、深い溜め息を付いた雅次は、竜二の手から手を引きぬき、そして彼を抱き上げて足の上に横抱きにする。

「甘えたければそう言えばいいだろう?」

真面目な顔で諭してくる雅次に、竜二は馬鹿なことを言うなと言おうとしたが、唇を噛んでそれをやめた。

「…クソ…っ」

そして、ぽすり、と雅次の胸に頭を付け、頬を擦り寄せる。

「もっと…撫でろよ…」

聞こえない程に小さい声で、竜二は、ボソボソとそう口にした。
雅次の胸に顔を埋めているため、ほんの少しだけ覗く彼の顔は、赤く染まっている。
それを見た雅次は、溶けそうなぐらい甘い笑顔を見せ、竜二の頭や背中を撫でる。
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