雅次×竜二

給、犯
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「…それはそうと、借りは何で返せばいい?お前、絶対、オレの都合の悪い時を狙って、借りを要求するつもりでいるだろう?」

頬杖を付いたまま、視線だけを動かし、竜二は雅次を見上げる。

「…よくわかったな」

竜二の指摘に、雅次は不穏な笑みを見せる。

「オレだったらそうする」

その笑みに、竜二は口元を歪め、扇子を返せ、とばかりに手を差し出した。
雅次はそれに従い、身を乗り出し、竜二の手に、扇子を渡す。

「っ…!」

だが、竜二が扇子を受け取った瞬間、雅次は扇子を離すかわりに、彼の手首を掴み、力任せに自分の方へ引っ張った。
隙をつかれた竜二は、それを振り払う間も無く、上体を机に預ける形で、その上に倒れ込んだ。
運良く、硯にはぶつからなかったが、やっと墨が乾いたばかりの護符が何枚か、彼の身体の下敷きになる。

「いい機会だ。そろそろ、アイツを拒む理由を白状してもらおうか」

それを気にすることなく、雅次は、竜二が身を起こす間も与えず、彼の顎を掴む。

「お前こそ、何故、奴に固執する?」

しかし竜二は、不様に取り乱すようなことはせず、そのまま雅次を睨み付ける。

「簡単なことだ。秋房は、この私が、唯一認めた男だからだよ」

雅次は、そう口にして、己の作り出した結界を、秋房が破った時のことを思い出し、懐かしむように目を細めた。

「秋房は、才能だけではなく、当主となる器もある。だが、ことお前のことになると、途端に脆くなるんだよ。それがたまらなく歯痒い」

竜二が、雅次さえも越えられぬ存在であれば、こんな思いをしなくても良かっただろうにと雅次は思う。
しかし、今、目の前で机に突っ伏している男は、あの日感じたように、雅次にとっては、脆弱な存在でしかなく、掴んだ手首は想像していたよりも細かった。

「お前が拒むたびに、秋房は萎縮するか、認められたいと躍起になりすぎて自滅する。…お前の存在が、秋房を駄目にしてるんだよ」

雅次の心の中に、竜二を疎く思う気持ちがあるからか、彼の手首を掴んだ手に力が入る。

「なら、オレが、秋房に『好きだ』とでも言えば、お前は満足なのか?」

雅次の言葉に傷つくどころか、竜二は、雅次を見上げ、不敵な笑みで尋ねた。

「!」

その問いに、雅次の表情が固まる。
雅次の面食らった顔に、その反応を予想していなかった竜二もまた、拍子抜けた顔になる。

「…話が飛躍しすぎたようだ」

竜二の突拍子も無い発言を笑い飛ばすどころか、逆に何故か胸に痛みを感じてしまった雅次は、竜二から手を放し、取り繕うように右手の中指で眼鏡を上げた。

「私がお前に望むことは、そんなことじゃないんだよ。…お前が何故、秋房を拒むのか、その真相が聞きたいだけだ」

一方の竜二は、自分を強引に押さえ付けていた雅次が離れたため、ゆっくり机から身体を起こし、着物の乱れを直す。
そして、顔を上げ、その瞳に雅次を映した。

「……知ってるか?雅次、花開院家の当主争いは、どの代でも壮絶なものだったらしい」

やっと竜二が口を開いたと思えば、彼が語りだした内容は、雅次が知りたい事柄とは無縁と思われるもので、雅次は、眉をひそめる。

「たった一つの席を争うんだ、『同族殺し』があってもおかしくはないと思わないか?」

そう語る竜二の顔は、どこか楽しげであり、唇がうっすらと笑みを含んでいる。
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