Normal Love

□you are precious one
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《You are precious one》





「チチ、…ま、まだ痛ぇか?」


「当たりめえの事聞くでねえ。おらはおめえと違って普通の人間だべ」


「……だよなぁ。すまねえ」




もうどれくらい時が経っただろうか。先程から一定の行動パターンを繰り返しながら自分の周りをうろつく夫を横目にチチは小さく溜息を漏らした




「やっぱ痛え、よな?」


「悟空さ!!さっきからずっと同じ事ばっか聞いておらの周りぐるぐる回って!!邪魔だから夕方まで修行にでも行っててけろ!!おらはゆっくり休みてえんだ!!」


「で、でもよぉ……」


オメエが心配で、と続くはずだった言葉は不運にもチチのギロリとした冷たい眼差しにフリーズし、そのままゴクリと悟空の喉に飲み込まれた



チチは今度はわざと夫に聞こえるように盛大に溜息をつく。延々と繰り返される同じ質問にいい加減うんざりだったから



まだ身体は痛むか。何処が痛いのか。気分は悪くないか。他にもう傷はないか



痛い。それはそれは痛いに決まっている。当たり前の事だ。ツンと鼻先を天井に向けて「自分が突き飛ばしたんでねえか」と冷たく言い放った



「ほ、本当に悪かった…。オラ、つよ「なーにが強くなりすぎちまっただ!!そったら理由で自分の奥さんに大怪我させる亭主が何処の世界にいるっていうんだべ!!」


「許してくれよ、チチ…。明日になったらカリン様のトコに仙豆ができっから!!どんな怪我だって、あっという間に治っちまうんだ!!」


「明日になったら治るとか、そーゆー問題でねえだよ」


「チチィ〜…」



何とも情けない声が部屋中に響いた。家事のできない母親の代わりに食料の買出しに出た息子が聞いたらどれ程呆れるだろうか



そんな考えなど少しも思考回路に組み込まれていない孫悟空。ソファに座ったチチに腰を屈めて目線を合わせると、パンッと目の前で手を合わせて許しを請う



彼も彼なりに必死のようだ



普段ならどんなに引き止めても修行に出て行く彼が、今日は頼まれても妻の側を離れようとしない。どうやら彼にとって今の状況は相当な非常事態らしい



チチは不機嫌さを露にしたまま三角巾で骨折の応急処置が施された自分の腕に視線を落とした。吊るされた腕を所在無くプラプラと微かに動かすだけで鈍い痛みに襲われる



しかし悟空には気づかれないようにしてはいるが、チチの中の怒りの大半はとっくに消え失せてしまっていた



こんな破天荒な夫に毎度毎度長時間憤怒してしていてはただのエネルギーの無駄なのだ。短時間で一気に感情を爆発させ、気がすめば早々に引き上げる事が得策だと長年の夫婦生活でチチはようやく学びつつあった



ずっと怒っていようが拗ねていようが、夫の平謝りがひたすら続くだけで状況は全く改善されはしないのだから




「なぁ、チチ。何かオラにできる事があったら言ってくれよ?何かねえか?あ、着替えとか「結構だべ」


「チチ…」



今回のチチは、悟空を許すそぶりをなかなか見せようとはしない。
未だ妻の怒りが最高潮に達していると思い込んで冷や汗をダラダラと流す悟空にチチはちょっとした優越感を感じていた




夫は実は宇宙人だった

ナメック星で伝説のスーパーサイヤ人へと覚醒した

フリーザという恐ろしい悪の怪物を倒した

宇宙一の強さを手に入れた




息子や仲間達から聞かされた話だけが先走りしてチチを苦しめた。平気で家を開けて帰ってこない夫。混乱不安に胸が押し潰されそうな夜もあった



しかし今夫の目に映り、彼の感情も行動も支配しているのは間違いなく、チチという名の小さな地球人の女唯一人なのだから




何も変わってはいない。そう、夫は何も変わってはいない



チチの知っている、強くて優しくて修行馬鹿で、おまけに妻には適わない、どうしようもない男



主人の機嫌を必死でとろうとする小犬のように彼女の周りをせかせかと動きまわる悟空に言い様のない愛しさを感じ、チチはいよいよクスクスと笑い出した



「……もう怒ってないだよ」


「チチ、許してくれんのか?!!」


「んだ。明日には仙豆で治せるんだべ?でねえと、孫家の大食らい二人の飯が作れねえだ」


「ああ!!サンキュー、チチ!!痛え思いさせて、…本当に悪かった」


「しょうがあんめえ。わざとじゃねえんだし、いつまでも根に持ったりしねえだよ。悟空さがちょっと触ったくらいでフッ飛んじまったおらも修行不足だったんだべ。もう怒ってねえから、修行行って来るといいだよ」



ぱぁっと顔を輝かせるを年齢不相応だと思いつつも可愛いな、と内心微笑んでしまう。しかし次の瞬間、悟空は突然神妙な顔つきへと変わった




「……オラ、今日は行かねえ」


「へ?なして?悟空さも、どっか怪我さしただか?」


「いや、そうじゃねえ。今日はずっとオメエの側にいるって決めたんだ」


「…………はあ?!」



チチは思わずソファから転げ落ちそうになった。何とか踏み止まり、信じられないというような表情で悟空を凝視する




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