Normal Love

□Linaria
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《Linaria》





「よう」


コツコツと近づくヒールの音を聞くと、チチのマンションの玄関先に座り込んでいた男はのろのろと腰を上げて短く挨拶した


「……カ、カカロットさ!!な、に、してんだ、おめえ!!」

「オートロックだからここで待つしかないだろ?」

「そういう問題でねえ!!今まで、何処で、何して……っ!!」

「へえ…。俺の事、そんなに心配だった?」

「あったりめえだべ!!一年以上も音信不通だったら誰だって!!」


肩を震わせて叫んでもそりゃあ悪かったな、と人を小馬鹿にしたように笑うだけで


あんまり毎度の事だから、いつしかそれはチチの神経を逆撫でする行為ではなくなっていた


自身を落ち着かせるように小さく溜息をつく



「とにかく、立ち話じゃ埒があかねえからおらの部屋行こ?今まで何してたかたーっぷり聞かせてもらうべ」

「いいのかよ、男を部屋に連れ込んで」

「はぁ?何だべ今更。いいに決まってるでねえか。幼馴染だもの」

「そうじゃなくて。……結婚、するんだろ?」



テンポ良い会話が途切れ、一瞬の間がその場を包む


内心の動揺を少しも顔に出さずに、チチは冷静に言葉を続けた



「なぁんだ、もう知ってたのけ。驚かせてやろうと思ってたのに」

「ここに来る前、おまえの高校ん時のダチに会って聞いた」

「……そうけ」


そう小さく返してからチラリと男を盗み見る


変わっていない、と思った


金色の逆立った髪も、何を考えているのか全く読めない蒼い瞳も昔のまんま

着崩したタイトな黒いスーツは、筋肉質な彼を心なしか普段よりほっそりと見せているのだけれど


「しっかし急な話だな。俺おまえに男がいんのも知らなかった」

「そりゃ、おめえはこの町をちょくちょく離れてどっか行っちまうから。付き合って半年くらいにはなるだよ。一週間前に、……その……プロポーズされて」


説明をしながらチチは息苦しい後ろめたさや罪悪感に駆られ始めた


相手は久しぶりにあった幼馴染なのに


そう


チチにとってはもうただの、幼馴染


――――それなのにどうして…
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