白詩

□秋桜
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この人と俺の息る部屋は
雑然と散らかっている

この人の周りだけ綺麗なら
他はいいやと思ってしまう


そのほかの部屋は沢山あって
だけども2人して使わないから
生活感なく整然としてゐる

みな 几帳面で そっけない


俺は、
それらの部屋を見る度に
ゾッとする

あの人の寝室や縁と
炊事場を行き来するときは
背筋の寒い気持になる


かつて居たらしい
家族の仕業か

それともこの人の
為したるか


よそよそしい
余りにも完璧で






…難攻不落。


  ・・
このしろは
ぜったい落ちない

この人の心も溶けない


何故、
俺はこんなひとを
好きになってしまったのか
こんな甲斐もないひとを
これほど愛しく感じたのか



それでも俺は
好きになってしまったんだよ

あなたの為なら
慣れない庭も育てるし
魚と大根も煮るよ
(これは今日の晩飯。)


あなたとははんたいの
俺は優しく熱い男なんだ



よその部屋は、
けれども神経質じゃない

黄と橙の秋桜が
咲(わら)って散って
部屋に舞うのを
風といっしょに
優しく受け容れる

この広い家が
往きずりの俺を
受け容れて呉れたように


俺無しじゃ生きてけない
あなたに必要とされること
それだけで俺は
ほんとうに 仕合わせ



陽光は
秋桜と似たいろで
すでに秋の顔をしている

この人の心も溶けやしないかと
期待したお天道は存外役立たず
日も暮れ空寒くなり

――なかに、入ろう。

と声をかける



併しあなたは頑として不動
まるで氷柱のようだ


――どうしたんだ
――風邪をひくだろう

と諭しても聴かず
そして動かず









…もしかして、俺以外の誰かを
待っているんじゃないだろうか?




心臓が は ね た






俺はまた
声をかける





――なかで、待とう。



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