treasure
□戦士の休息
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ここ数日、連続した任務で幾許かの疲労を抱えながらロックオン・ストラトスは戻ってきた。
いつもは衝突しやすい他の面々をいなす兄のような雰囲気を湛える彼も、今日ばかりはどことなく険しい表情をしている。
ソレスタル・ビーイングに身を投じると決めたときからその道が殺伐としたものになることは覚悟していたし、彼自身この生活も長いのだが、彼も人間なのだ…疲労を感じないわけがない。
けれど自室のスライドドアが開いた先、ベッドに足をぶらつかせる華奢な後ろ姿に気づいた彼の顔は、少しばかり和らいだ。
ドアの音にぱっと振り返ったその相手…ロックオンにとって一番大切な存在である彼女は、こちらを確認するなり満面の笑みを浮かべる。
「おかえり」
「…ただいま」
この僅かなやりとりの間に口元を緩ませながらこちらを向いた彼女に歩み寄り、隣に腰かければなぜかじっとこちらを見据えられる。
どうした?と問いかければ彼女は一言、
「疲れてる?」
思わず驚きに目を見開いてしまった。
「…顔に出てたか?」
「うーん…ていうか、なんか空気がちょっと」
そういう感じがした、と小首を傾げる彼女はこのところ誰よりもロックオンの心の変化に敏感で、ほんの少しの心の揺らぎにも気づいてしまう。
いや、もしかしたら気づかぬうちに彼が彼女の前では自分を取り繕うことを忘れているのかもしれないのだが。
まぁちょっとな、と苦笑気味に答えれば、こちらを見つめる瞳は少し考え込むように伏せられた後、何かいい考えを思いついたらしくぱっと輝く。
そして、
「ニール」
いつか教えた本当の名前を呼びながら、どこかかしこまった様子で腕をこちらに伸ばしてみせる。
真意がわからずまばたきすれば、彼女は照れ臭そうに口を開いた。
「おいで?…とか言ってみたりして」
それは、いつもロックオンが彼女にかけている言葉だった。
彼女が甘えたいとき、心が折れそうなとき…腕を広げてやれば躊躇いこそするものの恋人はそこへ飛び込んできて、嬉しそうにぎゅうと抱きついてくる。
自分にもそうしろ、ということなのだろう。
くすり、と小さく笑ったロックオンは、彼女の厚意に甘えるためにその一回り小さな体を抱きしめた。
「じゃ、遠慮なく」
「え、え、あれ…!?」
すっぽりと体を包み込んだまま押し倒せば、予想外だったのか下で慌てる声がする。
喉で笑いながら「襲ったりしねぇよ」と告げれば、「あ、そう…」と安心したような拍子抜けしたような声が聞こえて、また笑いたくなる。
本当に、わかりやすい子だ。
「あ〜…癒されるな、これ」
「そ?」
「ああ」
首元に顔を埋めたまま頷けば少々くすぐったかったのか彼女は小さく身をよじったが、背中に回した腕を離すつもりは無いらしい。
体格としては自分の方が大きなはずなのに、こちらが包まれているような気がするのはどうしてなのだろう。
「いつもお疲れ、ニール」
ぱたぱたと背中を叩きながらあやすように囁かれ、その心地好さに胸の内がほぐれていく。
「…これくらい、なんでもねぇよ」
恋人の前である手前そうやって格好をつけてしまうものの、優しい声、自分を受け止める柔らかなぬくもりを自分が求めてしまっているのは事実で。
少しだけ充電するつもりがそのまましっかり熟睡してしまい、その間抱きしめられたままの恋人を困らせ、目が覚めてから平謝りすることになるのは、まだ数時間先の話だ。
戦士の休息
(束の間の優しいときを貴方に)
*Fin*
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