駄作ぐさぐさ

□可哀想な私のサロメ
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私は自分の容貌が特別整っていることを知っている。

窓に映る自分の姿を客観的に観察してみる。
小さな顔、丸い額、滑らかで白い肌、艶やかな黒髪、細く通った鼻筋、柔らかく赤い唇、そして何よりも印象的な目。睫毛は繊細で長く、瞳は大きく黒く澄み、深い目頭は緩やかで美しい曲線を描いて眦へと続くことが鋭く妖しい眼差しを演出している。首や肢体は華奢ですらりと長く、女性らしい曲線を持つ胴体と女性に稀なる長身で、とにかく威圧感さえある人間離れした美女である。

繁栄を誇る帝国の貴族、シュルツェ侯爵家の長女サロメが私だ。今年で18歳になるが、良くも悪くもあまり年相応に見られたことはない。愛嬌があるわけでもない静かな私は冷たく感じられることの方が多い。


「まあ、気分が悪いわ。相変わらず醜い顔を朝から見てしまうなんて。勘弁してちょうだい。」

屋敷の中を歩いていると投げかけられる侮蔑の言葉は挨拶のようなものだ。私は声の方を見て継母の姿を確認すると、潮らしく首を垂れて謝った。

「おはようございますお義母様。配慮が足らず申し訳なく存じます。」

これ見よがしに向けられる嫌悪の眼差しを受け止めて、私は足早に、けれど静かに落ち着いてその場を立ち去った。
声もかけなければ見つめ合うこともせず通り過ぎられるものを、詰らなければおられないのだ。


私が2歳の頃に産みの母は事故で亡くなり、その1年後に父が再婚してユリアという女が私の2番目の母となった。彼女には私より1つ歳下の双子の連れ子がおり、私は一挙に弟妹を得たのだった。

彼女は絵に描いたような単純な継母で、とにかく連れ子を猫可愛がりし、依怙贔屓し、前妻に似た容貌をした私のことを虐めるのが愉しみであった。そんな母を見て育つ双子の幼児は案の定、私を嘲りの対象とした。

一方私は、自分のんびりとした性格やそれでいて器用な性質、また特に容貌についていくら悪く言われようが、それを真に受けて卑屈になったり自己肯定感が地に落ちる事はなかった。

「前世より段違いに器用で美しいもの...」

稀有なことに、私には前世の記憶があった。
21世紀の日本という国で生まれ暮らした25歳頃までの記憶がある。現世での生活が長くなるほど記憶は曖昧になっているけれど、人間の営みや本質というのは国や人種、時代、歴史と文化が違ってもだいたい同じになるのかもしれない。

私は前世で「美人だ」とよく言われる女性だった。人の容貌をとやかく言うことが憚られる風潮もあったが、やはり美しいことは良い事だった。比較的誰からも親切にされ、愛され、楽しい人生だったように思う。何故死んだのか覚えていないが、たぶん25歳頃に事故か病で死んだのだろう。

そのおかげで私は今世の人生を少し他人事のように捉えるところがあり、いくら「醜い顔」「下品な体」「狡賢い」「のろま」などと10年ほど寄って集って言われようが(でもどう見ても美人だし、健康だし、比較的器用だし、そんなにバカでも無いし、貴族だし、かなりラッキーな気がする)なんて呑気なものである。
継母も義弟妹も人を妬むほど馬鹿でもブスでも不幸でも無いのに、なぜ私をそんなに蔑むのか今でも分からないが、命の危機では無い限り別段構わないので反抗した事はない。
実の父はというと、もう前妻である母のことは忘れたようで、私にも興味が無いらしく、特に助けられた事もなければ怒られた事もない。私の方も実の父である彼のことを最も良く知らないのだった。
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