駄作ぐさぐさ
□zakki
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わたし、日曜から木曜まで淑女でいて、金曜日は遊木季くんの玩具になって、土曜日は常白先生の女王様になるの。
彼女の真っ白な肌のそこらじゅうに、鬱血。目を疑った。
僕は、彼女の秘密を知ってしまった。金曜日は同級生の男の部屋で好き勝手に触られて、土曜日は教師の家で望むままに弄るのだと言う。
せめて、彼氏ができたならよかった?
僕は目の前の彼女を見つめる。相変わらず、一点の曇もなく、可愛い。ひどく。鬱血以外は、僕の知っている彼女のままだ。
大きくてまあるい瞳は柔らかく僕を見つめ、赤く小さな唇は無作為に微かに開き、慈愛に満ちた表情で僕の様子を伺う。
「わたし、ろくな女じゃないのかもしれない。ただ、常白先生が私を求めてくださって、その様子があんまりにも可愛らしくて...遊木季くんも、まるで別人みたいに私を苛めてくれて、断る理由がひとつもなかったの。貞操も唇も守ってはいるけれど、決して純情なんかではないわ。もちろんこのことは誰にも知られたくなかった。秘密がすきだったの。」
彼女は淡々と、けれど確かに困ったように眉根を寄せてたまに言葉をつまらせ、僕に伝えようと一生懸命喋る。
「けれど、尚慧くんに知られるのは、特別恐かった。わたし、異常だって貴方に思われるのが嫌だったの。こんなに仲良く育ったのに、軽蔑されたら、もう終わりだと思ったわ。」
「......軽蔑、なんか...」
「私、尚慧くんには特別弱いの。きっと弟がいたらこんな感じなのでしょうけど、他のみんなとおんなじようには扱えない。」
「それは.....」
恋愛感情を微塵も含まずに?
そんなことを考えるけれど聞けもしない。
「幻滅させたら、ごめんなさい。だけど、もちろん私自身は悪いことをしたとも、無かったことにしたいとも思っていないの。これからも、きっと続けるわ。だけど、尚慧くんとの関係は、切れてしまうかもしれないわね。」
「そんなことない」
反射的にそう言うと、いつも凛として強かな彼女は、ひどくいたいけな顔していた。
そうだ、この人にとって、僕は特別なのだ。
そんなこと、前から知っていたはずだった。彼女は僕にだけいつも優しく、心を許した。
「俺、ずっと、櫻子を...」
勢いに飲まれて言いそうになった言葉をぎりぎり飲み込む。すきだ、なんて、今言うことじゃないのだ。彼女のそれは、恋愛ではないと分かる。ほんとうに僕を弟かのように思っているのだ。
「日曜から木曜まで、俺にちょうだい」
考えてやっと思い付いたのは、それだった。彼女は固まる。
「尚慧くんに?」
「俺、悔しいんだよ。遊木季や常白より、俺の方がお前とずっと親いはずなのに。櫻子はずっと、俺を特別扱いしてくれてたじゃん。ちゃんと、俺を贔屓してくんなきゃ」
情けなくも、気づけば、駄々をこね泣きそうな子供のようにそんなことを言っていた。
だけど本音だった。もちろん、彼女と付き合って、今後それらの男とは離別してくれるのが一番嬉しい。けれどそうとまではいかなくとも、やっぱり彼女の特別でいたいのだ。
「できない?」
彼女を見つめて肩に両腕を回し、ぐっと近寄る。こんな距離は、小学生以来だ。あの頃とはもうこんなに変わってしまった。彼女は女になったし、僕も男になった。
彼女の瞳が揺れる。
「いい、よ」
震える声がそう言った。僕は嬉しくて、愛しくて、ぎゅっと大切に大切に、優しく彼女を抱き締めた。ずっとずっと、こうしたかった。望んだままではないけれど、じゅうぶんだ。
抱き締めるだけでこんなにも気持ちいい。
「金曜と土曜のこと、止めてとまでは言わないから、さ...日曜から木曜まで、俺の恋人になってよ」
「...恋人、は...」
「目をつむるから。ただ他の奴みたいに遊ぶんじゃなくて、キスも、その先も、したい...金曜と土曜は彼女を休んでいいから、俺も目をつむるから、恋人になってよ...」