駄作ぐさぐさ

□The ready of hart brake
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他人の秘密を見ることが出来たら?
想像したことがあるだろうか。人の考えていることが分かるなんて超能力を。

はっきりと見えるわけではないけれど、僕は人の頭の中がなんとなく見えるのだ。それは物理的に近ければ近いほど、その人が強く思えば思うほど見えやすい。

「有村さんて、美人だよな」
(すきだ)

「うん。」
(やりたい)

「彼氏いないんだろ」
(高嶺の花)

僕は、そうだね、と適当な相槌を打つ。
有村胸花さんとは、僕も所属する書道サークルの会員のひとりだ。同じ三回生で、文学部。

小さい顔に、大きな目に、高くて小さい鼻と、赤い唇。長い黒髪はつやつやさらさらで、華奢な体。紛う方無き美人だ。はっきりした目鼻立ちで、はきはきとよく喋り、理知的で聡明な高嶺の花。

彼女の事は一回生の頃から知っているし、当時から美人で知られていたけれど、近頃はいっそう可愛いのだ。

メイクを毎日手抜きせずするようになったし、髪の毛も巻いたりくくったりするようになった。前はどこが気弱でおどおどしている節もあったけれど、今は強かで自信に満ちている。

彼女は、僕の顔が好きらしかった。
僕はたまたま、見てくれが好い。女の子からも人気がある。自惚れではなく。僕が女の子と話していると、相手はたいてい(かっこいい)(付き合いたい)(すき)(気に入られたい)などと考えているのだ。

彼女は人見知りで目を見て話さなかったけれど、僕と話すときいつも最初に(今日も美男子)などと思っていた。

彼女は良くも悪くも素直で、好きな異性のタイプは海のように心が広いイケメンだと話す。

(このひと
かっこいいけど
いやみっぽいわ。)

(きっと
くろうを
していないのね)

(わたしもだけど)

彼女は僕にそんなイメージを持っていた。決して僕をこてんぱんに批難はしなかったけれど、いいようには思われていないようだった。

確かに僕は、容姿端麗、文武両道で裕福な家庭に育った苦労知らずだ。この能力のせいで苦しむことや、異常な好意や嫉妬に困らされることはよくある。

(まあ、この学校にはそんな大変な苦労をしている人、あんまりいないんだけどね。)

彼女の頭の中は、たいていいつもご飯のこと、漫画や映画や小説のこと、勉強のことばかりだ。かなしいこと、つらいこと、ねたましいことはさっぱりなかった。
なんなら彼女は、あまりなにも考えていないようだった。成績は悪くないしいかにも聡明だけれど、ぼーっとしている方だ。
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