■百×四小説・3■

□△甘えたいの
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俺達は今、ネットカフェに来ている。

なぜかってぇと、百目鬼家のDVDが壊れたらしいからだ。



■甘えたいの■



『クララが…クララが立ってる……っ』



深夜。
駅前に新しく出来たというネットカフェ。
二人掛けのソファに大画面の液晶テレビが設置されたシアタールーム。
迫力あるその大型テレビに繋がれたヘッドホンからは、不朽の名作がいよいよ感動のシーンを迎えている。
の、だが。



「百目鬼。やめろって」



先程から百目鬼は何を考えているのか、四月一日を抱き寄せては口付け、手を握るなどといういちゃつき行為を繰り返し行っている。
何事かと聞いても、返事はない。
だが経験上、四月一日にはこの行為が百目鬼の甘えである事が解っていた。

深夜のせいもあり、自分達以外で店にいるのは客と店員を合わせても精々三、四人。
しかも、二人がいるシアタールームは店内で最も端の方。
多少は声を出しても、流れるBGMに掻き消されてしまうのだ。



「何だよ。見ねぇのか?」



ついに、四月一日を抱き締めたまま動かなくなってしまった百目鬼。
その広い背中を撫でてやりながら、四月一日は問う。
肩口で、百目鬼は小さくコクリと頷いた。

──甘えたいとき、百目鬼は必ず顔を隠す。
四月一日を自分の胸に押し付けたり、後ろから抱き込んだり。
その方法は様々だが、放っておけば気が済むまでずっとそうしている。
何故百目鬼が顔を隠したがるかは解らない。
四月一日は一人、恥ずかしいのではないかと考えているのだが。



「仕方ねぇな」



背中を撫でるのをやめて、四月一日は百目鬼にぎゅっと抱き付く。



「キスしてやろうか?」



時折、思い出したように甘えてくる百目鬼。
普段は自分ばかりが甘えているために、それはそれで嬉しい。
四月一日は、甘えていいんだよと伝えるように、聞いた。
顔を上げた百目鬼の頬を包み込む。

笑って、触れるだけのキスをして。



「もっと甘えていいよ」



百目鬼の首に腕を巻きつけながら、耳元で囁いてやる。
百目鬼が、苦笑したように聞こえた。



「どっちが甘えてるか、解らないな」



まあ。
愛し合っちゃってるってことで★



【end...】
 

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