prf.Layton.

□鬼ごっこ
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突然だが、私の弟子は破滅的にかわいい。
いつも私の研究室に顔を出してはお湯を沸かし、熱々の紅茶を淹れてくれ、何をするわけでもなく、私の回りをちょこちょこ動き回っては楽しそうに笑う。

「(だめだ、見とれてしまうところだった…)」

外に出るときもついて来て、学生達に呼び止められていると手を引いて「急ぎますよ、せんせい」とはやし立てられる。

道ばたを歩いている動物に気を惹かれて土手から落ちそうになったりするのを防ぐのは私の手。
捕まったり捕まえたり。
まるで鬼ごっこのようだと思う。
2人だけの永遠の鬼ごっこ。


用事も事件も無い日はソファに腰掛け、本を読むのがルークの仕事。紙が擦れる音がしなくなったと思い書記作業から目を移すと瞼を閉じて安らかな寝息をたてていた。

「(キミは少し、無防備すぎやしないかい?)」

寝顔を横目に溜め息を押し殺す。正直こんなに彼に執着するとは自分自身考えていなかった。
いなかったはずだ。

それなのに今は、こんなにも手放せない存在になってしまった。
そっと近づいて栗色の髪に触れる。彼が目覚めない事を良いことに毎回こんな風に触れて。まったく私はどれだけ臆病者なんだ。

「早く逃
げないと、悪い鬼に捕まってしまうよ?」

そうだ、早く遠くに逃げるんだ。私に捕まらないように、ずっとずっと先へ。

「そのオニがせんせーなら、それでも良いです。」
「ルーク!!キミ、いつから…っ!?」

薄く目をあけて微笑んだキミの表情は、少し赤らんでいたかもしれない。
ルークはすぐに私の懐に抱きついたかので、これは憶測にすぎないが。

「嬉しいです。だって先生はちっともボクを見てくれてないって思っていたんですよ?でもやっと気持ちが聞けた。ボクはこれからも、先生のそばに居て良いんですか?」

抱き寄せて良いのか迷っていると、服を強く掴んできた。この子は賢いし素直だ。だからそれが本気なんだと信じた。

「キミは、私から逃げられなくなってしまうよ。それでも良いのかい?」

一度大切な人を失った私は、手に入れたものは離さないよう、それこそ、キミを押しつぶしてしまうかもしれないというのに。

それでもキミは、

「離さないで下さい。出来れば片時も離れないように。ボクは、それが幸せです。」

日だまりのように微笑んだ。

「ありがとう、ルーク。」

風が吹き抜け、刻む夕刻。
その時を噛み締めるようにただただ愛しい身体を
抱き締めた。

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