「早く帰ろうよ、桃先輩」
部活の終了後、まだ着替えている俺をさっと見ると、そう言い放つのは越前リョーマだ。 この春に入ってきたとても生意気な新人だ。
「俺外いますよ」
先輩に対する態度とは思えない言葉遣いで、俺の好きなヤツ、『越前リョーマ』が俺の帰りを急かす。やつはそう言いながら他の先輩に軽く挨拶をし、男子更衣室を後にした。
そう、俺の好きなヤツは男だ。
この感情に気づいた時、やはり初めは戸惑いもしたが、好きになってしまったものは仕方ない。
吹っ切れるものにこそ時間は掛かったものの吹っ切れた時には、もう戻れないくらいこいつを好きになっていた。
「おう。悪ぃ悪ぃ」 「準備終わったんなら早く帰るっスよ」 「分かってるって」
部室の外に出てもたれかかって待ちながら携帯ゲームをしていた越前に声をかけると、俺の顔を確認するや否や携帯をポケットにしまい帰り支度を始めた。
「あの、桃城君」
ふいに声を掛けられ、思わず振り返る。
――誰だったっけ?
クラスの女子だったか。
やべえ。 顔に見覚えはあるものの、名前が思い出せない。
「俺に用か?」
ひとまず、名前は出さないが、おう、何だよ。という感じで親しげに返してみる。
「ちょっと話があるんだけど……良い?」
(……何も越前と居る時じゃなくても良いじゃねぇか)
ちょっと内心でそういうことを考えてしまった。 用事なら早く終わらせられっといいけどな…。
「ああ、良いぜ。…と、越前。ちょっと待っててくんねぇか?」 「…ファンタ」 「分かってるって」
あれ? 何かこいつ、機嫌悪くねぇか?
でもまあ、それもそうか。 待たされた上、更に待たされるんだからしょうがない話だよな。
「じゃあ桃城君…。ここじゃなんだから、体育館裏に来てくれる?」
越前をチラッと見てから、その女子は言った。 …ここでは駄目な話か。
「おう。分かった」
早く終わってくれれば良いんだけどな…
越前の機嫌が悪いのも気になるしな……。
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