□鈍感2人
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「英二先輩…相談があるんスけど…」

「にゃににゃに?改まっちゃってどうしたの?」

「唐突なんスけど……越前って、俺の事好いてくれてると思います?」


部活が終わってすぐに自分の所に来たかと思えばこそこそと話してくる桃城の話に菊丸は耳を傾けた。
桃城があまりにも深刻な表情で聞いてくるので菊丸も真剣な表情で答えたが。そんな内容だと分かるとどうでも良さげに頭の後ろで手を組んだ。


「……そんな事?」

思わず口に出てしまったその言葉にしまった、とでも言いたげに菊丸はバツが悪そうに口を尖らせた

「そんな事って何スか!俺にとっては他とは比べられないくらい大事な事なんスよー?!」

桃城は渾身の思いで聞いたが、菊丸のあまりに気の抜けた返事に泣きそうになりながら声を荒げた。

周りの目がばっとこちらを向き、菊丸は慌てて肩を組んで耳打ちでこそっとした。

「桃、あんまり大きい声出すとおチビに聞こえちゃうけど…」
「あ…!すんません!」

ところで…どうなんスかね、と続ける桃城に菊丸は内心で小さな溜息を吐いた。

「そんなの、俺にとってはちっぽけな事にゃんだけどなー…」
「ちっぽけって何スか!人が一生懸命悩んでるっていうのに!」
「にゃはは!めんごめんご!」


内心で「(だってなー…)」と思いながら、桃城に気付かれないよう菊丸は目線を逸らした。

その先には自分を睨みつけているリョーマの姿。

鈍感なんだよなー2人とも。と、心の中で呟く。


「………どう、思ってるんスかね…」

とても真剣に、深刻そうにそう言う桃城にこれ以上茶々を入れる気もなく。思った事を素直に口に出した。

「…んー?好意、もたれてるんじゃにゃい?」

じゃないと、俺が睨まれている意味が分からない、と菊丸はため息を吐いた。


菊丸がそう言えば、桃城は「あー…そっちの意味じゃないんスけどね…」と小さく呟きながら頭を掻いた。

「…まぁ、兄貴分としては慕われてるかもしんないんスけど…。さっき、俺の事睨んでたんスよね…」
「(気付いてんだ!いや!それ、桃にじゃなくて俺にだから!)」

本当の事を教えてやろうかとも思ったけど、それじゃあ2人にとって何の意味もない。
この2人の後輩なら、自分達で何とかしてくれるだろう。
いや、自分達で何とかしたがっているだろう。外野が手を出すことじゃない、などと思いながら、精一杯のアドバイスを送る。

でも、それが面白いほど、通用しない2人だったから、今に至っているのだ。
外野から見てここまで分かりやすい2人なんだから、とっくに両想いに気付いてくっついているだろう。


「桃ー?当たって砕けるのも、男としてのやり方だと俺は思うけどにゃー」
「なっ、英二先輩!男同士っスよ!?砕けたら、もう粉々じゃないっスか!修復不可能な可能性、大っスよ!大!」
「…んー、でもねー、言わなきゃずっと関係は変わんないんだよー?」
「それはまあ…そうかもしんないっスけど…」


いつまでも、ぶーぶーと文句を言っている桃城を、何とか落ち着かせることに成功した菊丸は一息ついた

「まぁ、お前らの頑張り次第だよ」

桃城の肩を叩いて部室を出ると、後ろで「…お前ら…?」と、首を傾げる桃城だった。





「(2人とも、本気だもんなー…。)」

目の前には、また呆れるような見せ付けられているような、そんな2人の日常な光景があった。決して2人とも鈍感なわけではないだろうに自分の事となるとこうもお互い気付かないのだから不思議なものだ。と菊丸は首を傾げる。


「…ねえ、不二。」
「どうしたの、英二」


目線の先には、少し離れた距離でストレッチをしている、桃城と越前の姿。


「あの2人、どう見ても、さ…」
「うん」

桃城は、チラチラと越前の姿を気にしては、視線を戻すのを繰り返した。
越前もまた、チラチラと桃城の姿を気にしては、視線を戻すのを繰り返していた。


「……」


結局は、お互いが鈍感な故か何なのか、お互いの目線が合わないため、お互いがお互いを頻繁に気にしていることなんて、気付きそうにもなかった。もうこれは奇跡と言ってもいいなじゃないか。

「…何やってんの、あの2人」
「良いじゃない。見てて飽きないし」
「……ん、そだね」


「(今度、アドバイス求めてきたら、「とりあえず砕けてみろ!これが最高のアドバイスだ”」って言ってみようか)」


そう考えながら目の前のの光景の面白さに、不二と菊丸顔を合わせてまた笑った。




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