「桃先輩、俺と付き合いません?」
二人きりになれば、俺は桃先輩にその言葉を掛けていた。
その度に桃先輩は、困ったように眉を下げて笑いながら上手く話をかわされていた。
「ね、桃先輩」
今日も部室に二人きり。
着替えている桃先輩に対して俺は、未だ上が着替え中のはだけた格好で近づいた。
近づいて、
「…桃先輩。いい加減俺とさ、
付き合いません?」
桃先輩の首に、手を回した。
いつもはこんな事までしないけど、言葉はいつも通りの事を言った。
嘘偽りない、俺の言葉を。
行動以外はいつも通りだっただけど、ここから先は、
いつも通りではなかった。
桃先輩は、苦しそうな表情を一瞬見せたかと思うと、俺をキッと睨み、
俺の手を勢いよく振り払った。
「いい加減にしろよな、越前!…俺は、そういう冗談は大嫌いだ…!もう、うんざりだ…!」
そう言って、
ドアが壊れるんじゃないかというくらい乱暴に戸を閉めて、俺を置いて部室を出て行った。
無駄に部室に戸の音が響いた後、
部室には、俺一人がポツン、と
残された。
『俺はそういう冗談は大嫌いだ』
「……ちぇっ」
冗談なんかじゃないっての。
こっちは大真面目にやってんのに、さ。 失礼しちゃうよね。
部活帰りにはいつも被らない帽子を深く被った。
「……伝えるのって、こんなに難しいもんだっけ…」
冗談じゃないのに。
本気だったのに。
冗談っぽく…、見えたの…かな
本当の気持ちが伝えられても信じてもらえない?
そんな自分が悔しくて、
涙が出そうになるのを、唇を噛んで堪えた。
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次は桃視点です。
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