俺には一つ年下のそこそこ仲の良い後輩がいる。
仲良くしていてこういうのもなんだが『可愛い後輩』と呼んでいいのかどうかは正直怪しい。
いつも自転車で帰りながらたまには寄り道をして話したりする事もある。テニスをすることもある。今日はそんな後輩、越前を我が家に呼ぼうかと思っている。
「よっ、越前!」
「桃先輩。今日もまた無駄に元気っスね。」
部室に入るなり、思いっきり後ろから抱きついた俺に越前はため息を吐いた。
「無駄とは何だよ無駄とは」
「夏みたいに暑苦しいっス。」
「夏だよ!!…つか、お前なー。仮にも先輩に向かって」
「じゃあ先輩らしくしてくださいよ」
いつもの事だからとうに慣れていて特に気になどしていないのだがねんの為にそう言っておく。越前は首だけ俺の方に振り返ってじっと俺を見た。
「で、どうしたんスか?」
「あ、そうそう!今な、めちゃくちゃお勧めなゲームあってよ!今日家に寄ってかね?これが本当に面白くってよ!」
この面白さを誰かと共有したいと思い、家に呼ぼうとしてるだけなんだけどな。 別に下心だとかそういうの、全くねえから!
「ふーん…」
越前は赤い襟のウェアに袖を通しながら俺の方を見てニッと笑った。
「良いっスね」
「おう!じゃあ、今日は俺ん家な!」
「ウィーっス」
そう笑いながら返事をする越前を背に、俺は部室を出た。
今日は越前が家に来るのか。 そっか!
「英二先輩!」
部室を出てすぐ外にいた英二先輩にそのテンションで絡んだら英二先輩はにゃ!と軽くびっくりしていた。
「どったのー桃?やけにテンション高くにゃい?」 「そっスかー?」
ニコニコ顔のまま英二先輩にそう聞く。
「そーそー。何か良い事でもあったの?」
「実はっスね!この後は越前が家に来るんスよー!」
俺がそう言うと菊丸先輩は「え」と俺の顔を見つめてきた。 なんだろうな、何か今日はやけに気分が良い。 さっきから頬が緩みっぱなしな気がする。
「…何か、桃…」
英二先輩がそこで言葉を切ったから、気になって英二先輩の顔を見る。
「好きな人を家に呼んだ時みたいな反応するんだにゃ」
「へ?」
好きな人?
……越前が?
「あ、桃先輩」
そんな事考えてたら部室から出てきた越前と目があった。 合った瞬間に心臓が跳ね上がるのが分かり、俺は弾けたようにグランドに向かって走り出した。
顔が真っ赤になって 心臓が激しく波打つのが分かる。
『好きな人を家に呼んだ時みたい…』
仲の良い後輩じゃなくって、仲の良い友達でもない。
(今までの言葉じゃあ、しっくりと来なかった理由が分かった気がした。)
…認めたくないけど…
これが恋じゃないというならば。
この気持ちを、何と呼ぶんだろうか。
(What is throbbing of this heart?)
→後書き
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