その他
□宣戦布告
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「はふぅ」
中庭のベンチに腰を下ろすとやっと気持ちを落ち着けることが出来た。ていうかそんなに目の敵にするならヒナさんの部隊に移してくれればいいのに。いつも異動届出しては黙殺されてるけど。センゴク元帥に直談判しにも行ったが、申し訳なさそうなあの仏の顔に頼まれて断れる人はいるのだろうか。
あとは誰に直談判しに行けばいいんだ。こうなったら直接ヒナさんのところに行った方が早いかな。
なんて…現実逃避もいいとこだ。書類貰いに行くとしか言ってないし、そろそろ戻らないと。あまり遅いとまたあの人の文句が増える。いつもみたいに気にしなければいいんだ。苛々しててもはじまらない。
「よし!」
「何がよし、なんだ」
「ぎゃわっ」
人が気合いを入れ直したところでその張本人に後ろから声を掛けられたら驚くに決まってる。大声をあげなかっただけまだましだ。
「座れ」
「…は?」
「そこに座れっつってんだ」
上司の命令に私が大人しく座り直すと彼はなんと私の隣に腰掛けた。私は小刻みに動いて少し隙間を作った。
「書類はどうした」
「…今、貰いに行くところです」
「そうか」
なんだ。責めてるのか。しかしそういう訳でもないらしい。相変わらず煙草を2本もくわえて、紫煙を吐き出し続けている。だからそれ嫌いなんだってば。
思わず顔をしかめた瞬間。彼と目が合ってしまった。反射的に逸らすのは致し方ないと思う。
「おい」
「…なんですか」
「お前…俺が嫌いか」
「…は、い?」
いきなり何を聞くんだこの人。目をぱちくりさせてしまった。ぱちくり。この人本当にスモーカーさんだろうか。
「…っ」
また、目が合ってしまう。
私はこの人が嫌いだ。嫌いなはず。私の嫌いな煙草を所構わず吸い続けて、受動喫煙で私のがガンになってしまいそう。
でも、まっすぐに私を見ている目が逸らせなくて、嫌い、とその一言が言えない。
「はっきり言え。まどろっこしいのは嫌いだ」
「…あの」
「どうなんだ」
「煙草は…嫌いです」
「それは知ってる」
知っているならせめて私の前では少なくするとかしていただけないんだろうか。変わらずすぱすぱ吸っているのは嫌がらせか。
「俺自身のことを聞いてんだ」
「ス、スモーカーさんこそなんなんですか!私のこと目の敵にして!」
そうだ。人に聞く前に自分こそどうなんだ。少なくとも好かれてはいないだろうけど。
「…嫌いじゃねぇ」
「私だって、嫌いじゃありません」
ただの睨み合いが数秒か数分続いたと思う。私は意地でも逸らさないでいると彼が折れた。
「はっくだらねぇ」
くだらないってなんだ。なんなんだ、全く。人に変なこと聞いてからに。
「さっさと戻るぞ」
「あ、はい。じゃあ書類取ってきます」
スモーカーさんに背を向けたらまた後ろから声を掛けられた。ばつが悪そうな顔してる。
「おい」
「はい」
「煙草…」
「はい?」
「お前が嫌いなら、ちったぁ控えてやる」
「…お願いします」
偉そうだけども。でもかなりのヘビースモーカーであるこの人が控えると自ら言うならば、信じてみようではないか。
スモーカーの宣戦布告
覚悟してろよ。
目にもの見せてやろうじゃねぇか。