小説(表)
□絆
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「……アイツ、もう帰ってんのか」
カウンターに座っているルカの姿を店のガラス越しに見付け、俺は手にしていたキーホルダーをジーンズの尻ポケットへ入れる。
今日はアイツと出掛けるって言ってやがったから、もう少し帰りが遅いと思っていたのに。
ルカもすぐに俺の気配に気付いたらしく、ゆっくりこっちに振り返った。
「お帰り、コウ」
「ん、ああ。オマエ、もう帰ってたんだな」
「当たり前だろ。ヒーローはいつだって、お姫様を無事安全に送り届けるのが役目なんだから」
「フッ、何言ってやがる。その割にゃ、イマイチ物足りねぇってツラしてんぞ」
「あ、やっぱり?」
「なんだ、図星か」
まっ、そりゃそうだ。
ルカはデートじゃないと言い張っちゃいたが、今朝、家を出るコイツの後ろ姿は、どっから見ても浮かれていて、デート以外の何者でもねぇだろって思ったからな。
「……で、どうだった?」
「うーん、どうだったんだろ?」
「ハァッ!?なんだ、その気の抜けた返事は。テメェの事だろが」
「ああ、俺?俺は、めちゃくちゃ楽しかったよ」
今日の出来事を思い返しているのか、ルカは口許に柔らかな笑みを浮かべた。
そんだけで今日コイツが、どんだけ楽しい時間をアイツと過ごしたのか、俺には手に取るように分かっちまった。
このままルカの隣に腰掛けりゃ良いのに、今はそんな気になんざ到底なれるはずもなく。
俺はルカの背後にあるテーブルのソファーに腰を降ろすと、頬杖をついて窓の外を見るフリをし、ガラスに映っているルカの後ろ姿に話し掛けた。
「だったらよ、素直にそう言や良いだろが」
「だってさ。コウが聞きたかったのは、俺の事じゃないよね?」
「……どういう意味だ?」
「それは、俺の台詞。それともコウは、わざと気付かないフリしてんの?」
「んだと、コラァ!」
拳を思い切りテーブルに叩き付けて立ち上がると、俺はルカの胸倉を掴み上げる。
けどルカは、椅子に座ったまま眉一つ動かさず、静かな眼差しで、一人激昂する俺を見上げた。