姫子先輩のお気に入り

□氷上編
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「……これで、良しっと」


カラーコピーしたばかりの、まだほのかに温かい用紙を手に取ると、ばらばらになっている紙の両端をコピー台の上でトントンと綺麗に揃えた。


それは小野田君お手製の風紀委員のポスターで、今月のスローガンがでかでかと描かれている。


僕はポスター一枚とセロテープを持って生徒会室を出ると、近くの掲示板にそれを張り付けて出来栄えを観察してみた。


「……これは、なかなか。さすが小野田君、素晴らしい出来だ」


後の残りは、明日、小野田君が各階に貼ってくれると言っていたので今日はもう帰ろう。


そう思っていたら、廊下をバタバタと走って来る足音に、僕は無意識に反応していた。


「君、待ちたまえっ!」

「……えっ!?オ、ぼ、僕?」


僕の前を通り過ぎようとしていたその生徒が、驚いたように僕を見る。


「君以外、誰がいるんだ。君、名前は?」

「オ、僕は、古森 拓」

「……古森?ああ、確か若王子先生のクラスの編入生だったかな?」

「あ、ハイ、そうです」

「そうか、それなら僕に敬語を使う必要はない。もっと気楽に話したまえ」

「そんな……無理、です」


無理?


何故、無理なのだろう。


さっきの僕の対応が、高圧的過ぎたのだろうか?


落ちつかなげに瞳をキョロキョロと動かしている古森君のその仕草は、どこと無く獣に追われる小動物を彷彿とさせる。


だからかも知れない。


僕の口調は、自然と柔らかいものになっていた。


「僕は、氷上 格。君と同学年で、この学園の生徒会長をしているんだ」

「……生徒会長、さん?」

「ああ。だから、何か困った事があったら僕に――っ!?」


『何でも相談してくれたまえ』と続く筈の言葉は、いきなり僕の腕に縋り付いて来た古森君の必死な形相に、遮られてしまった。


「なっ、何なんだ、君は!?」

「オラを助けてっ!」


助ける、だと?


彼の身に、一体何が起こっているというんだ!?


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