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□幸運の女神
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「ヤバイ、ヤバイッ、ヤバイってっ!」
夕方の買い物客でごった返す商店街を、すれ違う人の迷惑も省みずオレは全力疾走で駆け抜ける。
目的地は地元でも有名な激安スーパー。
普段でも安い食料品が、今日は月一で開催される儲け度外視の特売日なんや。
開店時のタイムセールは学校があるから無理やし、夕方4時からのタイムセールに賭けとったのに。
こんな大切な日に限って、担任から呼び出しを喰らってしもうた。
まあ、最近のオレは遅刻が多いわ、授業中に居眠りするわで、自業自得って言われたらそれまでなんやけどな。
腕時計に目をやると、時刻はとうに4時を過ぎとった。
商品によったらもう売り切れてるモンもあるやろうしそれは諦めるとしても、米と味噌と醤油にマヨネーズ、それからあと……何買うんやったかな。
取り敢えず長期保存の利く調味料やインスタントもんはゲットしとかな、バイトの収入で生計立ててる苦学生にはキツイんよ。
正直、この特売日が今月のオレの生活を左右するっちゅうても過言やない。
「……頼む、まだ売り切れんとってくれ」
幸運の女神よ!
どうかオレに、光の手を差し延べてくれーーっ!
なんて思っとったけど、世の中そんなに甘ないわ。
店内に入って陳列棚を見てみると、デカデカと“売り切れ”と書かれたポップが所々に貼り付けられとった。
「あかん……逃げられてもた」
いや、違うか。
幸運の女神なんて、そうそう居てへんってだけの話や。
ホンマは一円でも安いモンを買いたかったけど、売り切れてもうたんはしゃあないし。
必要最低限の物だけでも買うて帰ろうと、入口に置いてあるカゴを手にした瞬間、背中を軽く叩かれた。