アオキミオ

□幸せの扉〜アオキミオ・X〜
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音素の開放と共に、レプリカ大地の崩壊が始まった。振動と、止まない轟音の中、エルドラントに一人残ったルークは、足元に鍵を突き立てた…約束を、果たす為に……

ローレライの鍵が消え、代わりに広がった譜陣が、地核へと沈む…ふと、何かに導かれるように視線を上げると、自分に向かって落ちてくる、紅の……
慌てて両手を広げ、受け止める……冷たい、躯を……
その表情は、想像していたよりも穏やかだった。だが…肌の色は、間違いなく死人のもので……
「………!」
名を、呼びかけたくても、声が出せない……そんなルークの前に、第七音素の塊が足元から浮かび上がってきた。ローレライ、だ……

『世界は消えなかったのか……私の視た未来が、僅かでも覆されるとは……驚嘆に、値する……』
かけられた言葉に、ルークは微かに厳しい顔になった。
(俺が生まれた時点で、預言は変わっただろう…!ローレライの預言に詠まれていたのはアッシュなのに…ローレライは初めから俺の事を『ルーク』と呼んでいたじゃないか!それなのに…この世界の変化を『僅か』だと言うのか!?)
苛立ちは、表に現す事無く、ルークの胸に仕舞われる。

ローレライの姿が光の帯となり、ルークの傍を回り始めた……その時、微かな囁きが届いた。
『どうやら…迎えが来たようだ』
「迎え……?」
ルークの声に応える事無く、ローレライが天へと登る。その姿を見送ったルークは、己の肉体から音素が離れ始めた事に気付き、瞳を閉じた……

刹那。

「痛ぇっ…!!」
突如痛みを感じて仰け反る。何かが、背後から彼の髪を引っ張っているのだ。
「な、何だ!?クソッ、離せよ!!」
必死に前のめりになるが、両腕に人を一人抱えた状態では、分が悪すぎる。とうとうバランスを崩し、ルークの腕からアッシュが離れてしまった!
「ああっ!!アッシュ、アッシュゥゥッ!!」
地核へと沈みゆく体を追い掛けようとした、その時……

「……くそっ!抵抗するな、屑!!」

ルークの耳に、自分と良く似た声が届いた。
似ているけれど、自分よりも低い声で……自分の事を、屑と呼ぶ者は……一人しか知らない……
「なん…で……?」
たった今、腕の中にあった冷たい躯……その人の声が、どうして後ろから……?
更に髪を引かれ、背後によろめくと、今度は服を掴まれた。足が震え、一人では立っていられなくなった胴に、腕が絡められた。力強い腕からは、温もりを感じる……腕の持ち主にぶつかった背中からは、温もりと鼓動を……
「ようやく……捕まえた……」
間近から再び、逢いたかった人の声が聞こえた。目の前には巨大な扉があり、閉まったところで、扉が譜陣で出来ていたのだと気付いた。中央にはローレライの鍵が刺さっていて、落ちる様がやけにのんびりと映る。

『二人』は……暫く黙って佇み、互いの温もりを味わった。

どのくらい、そうしていただろうか……
絡みつく腕に、触れてみた。震える手で、恐る恐る……

「………アッ……シュ…?」

名前を呟く……大切な、たった一人の名前を……それだけで、ルークの胸は引き絞られるような痛みを感じた。

「何だ…?…ルーク……」

呼び掛けに応えが返る……それだけの事が、堪らなく嬉しくて……ルークは、己の体を背中に預けた。
離れていかない腕に、しっかりと支えられる。首筋に掛かる、温かな吐息……

腕を剥がし、ゆっくり振り返ると、飛び込んできたのは明るい赤毛。初めて見る、白い服。穏やかな、緑の瞳……
「アッシュ……」
震える指が、腕に触れる。ゆっくりと伝い登り……首筋へと辿り着いた。指先に感じる、確かな鼓動……
ルークの瞳が、潤んでいく……
歓喜の、涙で……

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