アオキミオ

□そして僕に出来るコト〜アオキミオ・W〜
1ページ/24ページ

いつものように、森へ狩りに出掛けた『彼』は、入り口近くで倒れている人影を見つけた。慌てて駆け寄るが、意識は無い。
「君!大丈夫かい?しっかりするんだ!」
怪我の程度が分からない為、揺することも出来ず、声を掛けるだけに留めていた彼は、鉄のような臭いに気付いた。否応無しに嗅ぎ馴れてしまった、血の臭いだ。黒い服で目立たないが、相当出血しているらしい。
「急がないと……手遅れになる」
立ち上がり、自宅へ走って戻ると、大声で家人を呼んだ。
「ミント!」
「お帰りなさい、クレスさん。随分早いですね」
「ミント!森に怪我人が居るんだ」
簡潔に告げると、彼女…ミントと呼ばれた少女は、普段は使わない為仕舞っている杖を取りに家の奥へ急いだ。
「案内して下さい!」
「行こう、こっちだ!」
彼……クレスの案内で辿り着いた森の中、怪我人の脇に座ったミントは、治癒の法術を唱えようとして……動きを止めた。
「どうしたんだい?」
「クレスさん…この方は、治癒魔法を掛ける必要が無いようです」
「まさか…手遅れなのか?」
「いいえ…この方は、どうやら怪我をしていないようなのです」
「だが……この臭いは…」
人の血だ、とは続けられず、倒れている人間を見下ろすと…当の本人が、呻きながら寝返りを打った。
「う………」
赤く長い髪に隠れていた顔が、露わになる。苦しそうな表情の彼は、予想以上に若そうだ。少年期と青年期の狭間……といったところか。
「君、しっかり!」
「大丈夫ですか!?」
声を掛けるが、意識は戻らない。
「クレスさん……」
「取り敢えず、家まで運ぼう」
「はい!」
ミントが協力して、彼をクレスの背に負わせると、小さな声を発した。
「………ク……」
「痛むのか?」
呻き声かと思い振り返ると、再び呟く。「……ルーク……」
「誰かの……名前か?」
ミントは、彼の倒れて居た場所の近くに、一振りの剣を見付けた。
「この方の剣でしょうか……」
「多分そうだろう。僕は先に行くから、他に落ちている物が無いか、探してみてくれ」
「分かりました」

さほど距離は無かったが、大して変わらない体格の人間を一人背負ったクレスの足取りは当然重く、ミントは直ぐに追い付いた。
「この剣以外、何もありませんでした」
「そうか……ああ、ミント。玄関の戸を開けてくれるかい?」
「はい」
剣と杖を机に置き、長椅子に彼を横たえさせる。
「ふぅ……」
「お疲れ様でした」
自分で運び込んだ人間を眺めていたクレスは、彼の服が派手に破けている事に気付いた。
「ミント、彼は本当に怪我をしていないのかい?」
「ええ。生命力は損なわれていないようです」
法術士の彼女がそう言うのなら、確かなのだろうが……
クレスは、彼の上着をそっと脱がせ、観察して……違和感を覚えた。
「……ミント、見てくれ」
優秀な剣士であるクレスには、服に残る裂けた跡が、剣による物だと分かる。腹部に3つ、背後に3つ……その跡は、上着だけではなく、その下に着ているインナーにまで達している。
剣士としての経験で……刺し貫かれた跡だと分かる。それも、三カ所も……
黒い服で目立ちはしないが、至近距離になれば血痕が見て取れる。明らかに……致死量だ。
それなのに、インナーを捲って見た肉体には……傷一つない。治療をした、痕さえも……
「どういう事だ……?」
「クレスさん!!」
考え込んでいたクレスは、ミントの声で現実に引き戻された。彼女の視線の先で……意識の無かった青年の瞳が開いていた。
「ミント、こっちへ!」
服を離し、ミントを背に庇って腰の剣に手を伸ばす。
ゆっくりと、頭を押さえて起き上がった彼は、しばらく視線を漂わせていたが、ようやく視点が定まったようで、クレスとミントを見据えた。
「此処……は?」
「……僕達の家だ。君は、森の中で倒れていて……手当てをしようと、僕が運んだ」
「森……?手当て……?」
「君は何故、あんな場所で倒れていたんだい?」
「倒れ、て……?」
単語ばかりを鸚鵡返しに呟く青年に、クレスは危機感を募らせる。
「君……?」
「っつ、う……!!」
突如青年が、頭を押さえて苦しみだした。
「君……!!」
青年を支えたクレスの腕を彼が力一杯掴み、指が食い込む。
「痛……っ!」
「此処は……何処なんだ?どうして俺は、此処に居る?あんた達は……誰なんだ!?」
「君…落ち着け!!」
しかし………
続いた言葉に、クレスとミントは凍りついた。

「俺は……誰だ……?」


next→

5/14up
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ