アオキミオ

□深い森〜アオキミオ・V〜
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『彼女』はふと、背後に気配を感じて振り返った。
たった今まで、誰も居なかった其処に…『彼』が居た……


鼓動が速くなり…息を呑む。『彼』の姿が大きくなるにつれて…『彼女』の体が、微かに震え始めた。それに気付いた『彼等』が、遅まきながらエルドラントを背にして歩く『彼』を見つける。

ゆっくりと…『彼女』が『彼』に近付く。
赤い髪に、白い上着、黒のズボン……

「どうして………此処に……?」
先に声を掛けたのは『彼女』の方だった。震えないように抑えた声で……確かめる為に……
「此処からなら、ホドを見渡せる……それに……」
記憶にあるよりも、少し低い『彼』の声……けれど。
「約束してたからな…」
『彼』の口から出た『約束』という言葉に、『彼女』の胸が引き絞られる様に痛んだ。ずっと、ずっと……我慢して、耐えていた涙が……遂に、堰を切って溢れ出す。泣きながら、一歩、二歩……『彼』に向かって歩き始めた『彼女』の後を、何も言えずに見詰めていた『彼等』も追った。複雑な表情の、一人を除いて……
一陣の風が『彼』の髪を撫で、長く伸びた前髪に隠れていた、碧玉の瞳を露わにする。それは、『彼等』が待ち望んでいた、『彼』の色……

「…ルーク!!」
『彼』に最も近い場所に居た『彼女』…ティア・グランツは、泣きながら名を叫び、駆け出した…『彼』に向かって。
ずっと、待っていた……
ずっと、逢いたかった……『彼』に、手が届く……
泣きながら微笑み、必死に伸ばしたティアの手を……『彼』は、避けた。
「………え……?」
突如目標を見失い、ふらついた彼女の足が、咲き誇るセレニアの花に取られ、倒れ込んだ。
「ティア、大丈夫ですか!?」
ナタリアがティアに駆け寄り、彼女を助け起こす。
「ちょっとルーク、何してんのよう!」
「何だよ、照れてるのか?」
アニスは腰に手を当て怒り、ガイはからかいながら、『彼』の前に立ち塞がった。
そんな二人の肩に手を置き……押し退けて、『彼』が歩み続ける。
「きゃわ!っとっと……何すんのよ〜!!」
「おい、ルーク!!」
バランスを崩し倒れ掛けたアニスの体を、以前よりは女性に慣れたガイが支え、『彼』を睨む。
「……勘違いをするな」
改めて近くで聞いた、記憶にあるよりも低い『彼』の声……これではまるで…まるで……
「…まさか……」
再び風が吹き、『彼』の長い赤毛と…マントを煽る。腰に真横に佩いた、独特の剣…ローレライの鍵を見たガイが、ようやく気付く。柄が……右にあることに。
「お、前…は…!」

『彼』が振り返る。
記憶にあるよりも、長い髪。
記憶にあるよりも、低い声。
記憶にあるよりも……冷たい瞳……

「俺が『約束』したのは……お前達ではない……」
『彼』の言葉に、4人が凍りつく。

「お帰りなさい、と……あなたも言って欲しいですか?」
「黙れ、死霊使い」
死霊使い…ルークは、ジェイドの事を…そんな風には呼ばない…
4人の視線を受け、眼鏡を押し上げたジェイドは……複雑な表情を隠し、笑みを浮かべた。

「今のあなたは、何と呼ばれたいですか?『ルーク』?それとも…『アッシュ』ですか?」


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