アオキミオ

□つよがり〜アオキミオU・U〜
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放っておけない。
その言葉通り、ルークは早速行動を開始した。

作戦其の一。正面突破。

「ぽーおーるくん、あっそび〜ましょ」
追いかけっこの最中、ポールの家の前で足を止めたルークが突然、両手で作った筒を口元に充てて叫んだ。
その声を聞きつけた子供達が、慌てて駆け寄る。
「ちょっ……ちょっと、ルーク兄ちゃん!」
「何言ってんの!?」
「何って……ポールとも一緒に遊びたいな〜と思ってさ。あ、お〜い!一緒に遊ぼうぜ」
窓の端にちらりと少年の姿が見え、ルークは大きく手を振った。しかし、少年の応えは無く、カーテンを閉められてしまう。
「ありゃ」
「ルーク兄ちゃん……」
「そんなに簡単に出て来るなら、こんな騒ぎにならないよ……」
「いいんだよ、先ずはこれで。これはただの……宣戦布告なんだから」
「せ……宣戦布告?」
「そっ。意志表示っていうか……」
閉ざされた窓の方から、確かに視線を感じる。隠れてしまったポールがこちらを気にしているのは明らかだ。
「俺は、放っておいてただ待つなんて気長な事、出来ないからな」



作戦其の二。天岩戸。

「……って、何それ?」
「昔話にあったんだ。天岩戸っていう洞窟の奥に閉じこもった女神さまが出てくるように、洞窟の前でどんちゃん騒ぎしたっていうのが……実際、こんな簡単な事でポールが出てくるとは思ってないんだけどさ、楽しそうな声を聞かせるのって、多少は効果あると思うんだよな」
もしも大樹を燃やしてしまったのが故意であるなら、本人がそう告げる筈。それをせず閉じこもっているのだから、今回の火事は何らかの事故であった為で、出て来られないのは自分を責めているからだと思うのだ。
だから、もう怒っていない事を教える為に一緒に遊ぼうと誘いをかけた。
「楽しそうな声がずっと聞こえてれば、もう誰も魔物に怯えていないって分かるだろ?だから、この家の周辺で遊びたいんだ」
「な……なるほど……」
「すげぇな、ルーク兄ちゃん……」
本当に理解しているのか怪しい二人とは違い、素直なケントは「……良く分かんない」と呟いた。
「分かんないけど……それがお兄ちゃんの為になるんだよね?」
「俺は、そう信じてる」
力強く肯くと、ケントは笑顔を見せた。
「ぼくは、ルークお兄ちゃんを信じることにする」

家の周辺で、大声を上げて遊ぶ為に子供達が選んだ遊びは、だるまさんがころんだ、だった。
「だ〜る〜ま〜………さんがころんだっ!!あ、ルーク兄ちゃんとミュウ、動いたー!」
「ふみゅう……」
「ずるいぞ、最後だけそんな早口で!」
「これをかけひきって言うんだよ」
「ルークお兄ちゃん、頑張って!」
無理せず着実に歩みを進めるケントがこのゲームには向いているらしく、彼は一度も鬼役になっていない。「だるまさんがころんだ」と言えない為、初めから鬼役免除になっているモノも一匹居たが……
「くっそー……もう一回!」
「は〜い、そこまで!お昼ご飯の時間よ〜」
ポールの昼食だろうか。布を被せたお盆を手にしたティアナが、いつの間にか傍に居た。
「えっ、もうそんな時間か!?」
「ええ。ほら……」
両手が塞がっている為、ティアナが南の空を仰ぎ見る。北国の低い太陽は、真南より僅かに西にあった。
「あっちゃ〜……また時間を忘れた……」
「楽しそうな声が響いてたから、止めるのが忍びなくて……私達はお先に失礼しました」
「勿論、構わないよ」
「ああ……時間を自覚したら、腹減った……」
「ルーク兄ちゃん、早く行こうよ」
言いながら駆け出したトムとダンの後を、ミュウを抱き上げたケントが追う。その背に、ティアナが声をかけた。
「玄関にお湯を置いてきたから、それで食事前に手を洗いなさい」
「「「「は〜い」」」」
4人の返事が見事にハモり、ティアナは吹き出した。
「やだ、ルークさんまで一緒になって返事して……子供みたい」
笑い声をあげながら雪原を走る彼等が謂われた通り手を洗い、母屋の中に消えるまでを見詰めていたティアナは、玄関の扉が閉まった音で我に返り、手にしているお盆の存在を思い出した。
「…いけない、手洗いのお湯より、こっちの方が冷めたら大変な物だわ!」
本日の昼食のおかずは、青菜と茸の油炒め。乏しい食生活の中、青菜の栄養吸収を助ける為、更に熱量を増加する為に、かなり多めの油を使った……つまり、冷めると油が固まって不味くなるのだ。
玄関の脇にお盆を置いて、数回ノックをする。
「ポールぅ、お昼ご飯持ってきたから、早く食べてね」
微笑みを浮かべたティアナが、表情と同じ明るい声で、姿を見せない少年に語りかけた。
今まで義務的に行ってきた食事運びの際、閉ざされた扉の向こう側に自分が声をかけるのは初めてだと、自覚しないままに……


2011年7/8up
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