短編

□ピューベティ・アンブレイラ
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最悪……

僕はそっと溜め息をついた。
今日は一日中晴れると思っていたのに。帰ろうとして昇降口に来て気付いた、土砂降り。
というか普通の下校時刻には降っていなかったはずなんだ。生徒会の仕事を始めたときは夕焼けが差し込んでいたから。仕事は明日にしてあの時帰れば良かったかな…と思ったけど、もし過去に戻れても僕は残っただろう、と思う。

それにしても酷い雨…一応折りたたみ傘を持っていたけど…僕は再び溜め息をつく。
理由は、

「うわ、いつの間に降ってきたんだ?」

この、金髪の男。




【ピューベティ・アンブレイラ 1】





一体どこで何をどう間違ったのか、僕はこの男、ディーノが、好き、なのかもしれない…。

最初は、無愛想な僕にうざいくらいついてくる変な人としか思わなかったけど、その印象と目立つ容姿もあって名前はすぐ覚えた。眩しいくらいの笑顔が擽ったくて、なんだかあったかくて。でもそれは僕だけに向いてるものじゃないって気が付いたとき、何故か息が出来なくなりそうだった。それで気が付いたんだ、僕がいつの間にかこの人に惹かれていたこと。
だからディーノが『一緒に生徒会やろーぜ』って言ってきたときには嬉しくて、でも素直になれないから『暇だからいいよ』なんて言った。

今日だってディーノに手伝ってと言われたから今まで学校にいたんだ。一緒にいたかったから、一緒に帰りたかったから。
でも、外は土砂降り。傘を差せばその分離れるあなたとの距離。顔も見えないし、声も届かない。
…何考えてるんだろう、僕。傘なんかあったってなくたって、近くに行ける関係じゃないのに。あぁー馬鹿みたい。


折りたたみ傘を取り出して、恨めしげにそれを見る。いっそ持ってなかったら、ディーノの傘に入れてもらったのに…と、考えてることは馬鹿だと思うけど、想像したらどうしようもなく胸がときめいた。
するとディーノが隣に来て、それだけで僕の鼓動は早くなった。「恭弥」って呼ばれて顔に熱が集まる。見上げたら、大好きなあの笑顔で。


「俺、傘忘れちゃった。なぁ恭弥、入れてくれねぇか?」


ディーノはへらり、と笑って。
僕は本気で死ぬかと思った。
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