短編

□Lights of Romance
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「ここ」
「ここ?」

着いたのは大きなショッピングモール。恭弥が嫌いなはずの群れのど真ん中だ。まさか咬み殺すとか言うんじゃ…という俺の不安とは裏腹に恭弥はすたすたと歩き出した。迷うことのない足取りは、どうやら買い物に来たのではなさそうだ。

やがて着いたのは屋外の広場のような場所で、人が大勢集まっていた。俺達は中心から少し離れた所にいたが、それでも周りには人がたくさんいる。家族連れやカップルもいるようだ。
しかし、すでに辺りは暗くこんなに人がいるのに、広場の電気は消えていた。

「なぁ、来たかった所ってここなのか?」
「そうだよ」
「群れてるけどいいのか?」
「しょうがないじゃない、ここでしか見れないんだから」


見るって何を?と聞こうとした時、広場に曲が流れ出す。これは…ジングルベルだ。
急に辺りがざわめき出す。なんだろう、と思っていると急に恭弥から手を握ってきた。人前で手を繋いだり抱きしめたりするのを嫌がる恭弥が、自分から指を絡ませてきたのに驚いて振り向く。

「きょ、うや?」
「…暗いし、誰も見てないよ」

小さな声で言われた言葉が可愛くて、ぎゅっと手を握り返した。
ジングルベルが終わる頃に恭弥は俺に寄り掛かってきて、見て、と前を指差す。
そして曲が終わった瞬間、辺りは一斉に色とりどりの光に包まれた。

「…すげぇ…」


広場を埋め尽くすまばゆいイルミネーション。木々を彩る青や白の光はまるで雪のようで、周囲から通路までに飾られたカラフルな電飾は点滅を繰り返している。その中央で、先程は暗くて気付かなかったが、様々な飾りと光を纏う大きなクリスマスツリーがあった。

「このイルミネーション、すっげー綺麗だな」
「気が早いのも良いでしょ?」
「おう!そっか、これが見たかったのかぁ」
「…うん…あ、あのね」
「ん?」
「…あなたと、見に来たかったんだ」

恭弥は頬を染めて手をきゅ、と握ってきた。その可愛さに思わず俺は息をするのを忘れた。どきゅんという効果音さえ聞こえた気がする。
寒さとイルミネーションのおかげか、今日の恭弥は素直に甘えてくれるようだ。

「…ほんと、お前は可愛いよ」
「…っ、あなたは本当に恥ずかしい人だね」


空いている方の手をそっと頬に添える。その意味を理解した恭弥はダメだと首を振るが、構わず顔を近付けた。

「や、ここじゃ…」
「大丈夫、誰も見てないんだろ?」

掌で包み込んだ頬は冷たかったけれど、そっと触れた唇はとても熱かった。




end
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