長編

□いびつなケーキ
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場所は変わってドレスショップananas。

この店の2階は居住スペースになっている。その一部屋のダイニングで、骸とクロームはテーブルを挟んで座っていた。テーブルの上にはクロームが持っていた箱が置いてある。

座ったきり何も言わないクロームに、骸は何と言えばいいのか悩んでいた。年上の女性を扱うのは得意だと自負しているが(一時期はヒモにしていた訳だし)、思春期の少女への接し方はわからない。特にクロームのような内気なタイプは苦手で、いい子だとはわかっていても、いつも逃げるようにボンゴレに行ってしまうのだ。

(どうしましょうかねぇ…)

しばらく無言でいると、ぽつりとクロームが喋った。

「…骸さま」
「はっ、はい!何でしょう?」


急に話し掛けられ、慌てて返事をしたら声が裏返った。

「…勝手に出掛けてすみませんでした…」
「あぁ、そんなことですか。いいんですよ」

一言話せば骸は落ち着いて、クロームに尋ねた。

「でもクローム、何故ボンゴレに?」
「……」

また黙ってしまった。何故。
聞いてはいけなかったのだろうかと思い、質問を変える。

「えーと、じゃあこの箱は何なんですか?」

するとクロームは俯き気味の顔を更に下げてしまった。
また地雷だったか、と骸は心の中で溜め息を吐く。この子の、こういうところが苦手だ。
そう思っていると、クロームがそっと箱に手をかけた。

「あの…これを…」
「これを?」
「骸さまに…」
「僕に?」


クロームの小さな手が箱を開けると、ふわりと甘い匂いが鼻孔を擽る。

「…と思ったのですがやっぱりやめます」
「ええぇえぇぇえ!?何でですか!?」

直ぐに閉じられてしまった箱に慌てて骸が手を伸ばす。クロームから箱を奪うともう一度それを開けた。
そこにはややいびつな生クリームのケーキが入っていた。

「む、骸さま!返してください!」
「何でですか!?だってこれ僕に作ってくれたんでしょう?」

確かにケーキの真ん中には、チョコレートペンで『むくろさま』と書かれたウエハースが乗っている。

「……」
「クローム?」
「…だって…上手く作れなかったんです…」

今にも泣き出しそうに眉を寄せるクローム。骸はその様子でやっと気が付いた。

「もしかして、ボンゴレに行ってたのはこれを作るためですか?」
「…はい」
「と、いうかわざわざケーキを作ってくれたんですか?」
「……」


クロームは小さくこくりとうなづいた。

「…すみません」
「何で謝るんですか!?」

骸は食器棚からフォークを取り出すと、ケーキを切り分けもせずに一口食べた。
クロームは慌てたが、骸はにこりと笑って

「美味しいですよ。ありがとう」

と言った。
クロームは少し困った顔をしてから、頬を染めてほんのり微笑んだ。

「お誕生日おめでとうございます、骸さま」

骸ははじめて見たクロームの笑顔に、不覚にも胸がきゅんと鳴った。

(…え?今、クロームに…?僕は何を思ったんだ?)

お皿を取ってきますと言ったクロームの後ろ姿を見ても、骸の心臓は速いままだった。



→おまけ
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