長編

□いびつなケーキ
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本日も青く晴れ渡るヴァレンシア。
降り注ぐ太陽の光が日増しに強くなり、海からの潮風が肌に纏わり付く。
夏が近付いていた。

大通りの3つ目の角にある小さなベーカリー・ボンゴレ。
本日も賑やかに開店致します。

「ひっばりっくーん!」

開店直後に勢いよくドアを開けた人物は1秒もしない内に外へと吹っ飛んだ。

「い、痛い…」

骸が突然の顔面への衝撃に悶えていると、店の中から少女が現れた。

「何しに来たの」
「ちょっと!一応客ですよ!」


少女――雲雀はチッと舌打ちをすると、先程骸の顔面に叩き込んだパン掴み(トング)を拾った。

「と、ところで雲雀くん!」
「まだ何かあるの?」
「まだって、僕まだ何も言ってないですよ!」
「へぇ、トング投げ付けられに来たのかと思った」
「そんなわけないでしょう!どんだけMなんですか僕は!!」
「違うの?」
「え、いや、どちらかといえば…ではなく!!」

ゼイゼイと息を切らした骸がもったいつけて咳ばらいをする。
雲雀はそれにもイラッとして先程のトングを握った。

「今日は僕の誕生日なごふっ!」

本日2度目の攻撃は見事に再び顔面へ。

「…ほんとに痛い…」

雲雀はまたトングを拾った。

「とにかく入ってこないで。」
「ひ、酷くないですか!?」
「ぐちゃぐちゃうるさいよ。あぁ、ぐちゃぐちゃにしてあげようか?」
「不吉に言葉を被せないで!」


骸は勢いよく後ずさると膝を抱えていじけだした。

「今日は僕の誕生日なのに…雲雀くん冷たい」
「ちょっと君、営業妨害なんだけど」

本日3度目のトング。だが下を向いていたため頭に当たった。

「い、痛い…クロームも朝からいないし…きっと僕の誕生日なんか忘れてるんでしょうね…」

その言葉を聞いた瞬間、雲雀がぴくりと片眉を上げた。
急に反応が返ってこなくなり、骸が不思議に思って顔をあげると

ガッ

とトングで髪の先端を掴まれた。

「ギャー――――!!!いいい痛い痛い!雲雀くん!抜けちゃいますから!!」

しかし雲雀は離さずに、むしろそのまま持ち上げた。

「痛い痛い!!!ナニコレ!?収穫!?収穫のつもり!!?」

自分の髪型がパイナップルに似ていることを自覚しているのか、骸は、やめてーおいしくないですぅーと叫んでいた。


「僕は君のそういうところが嫌いだ」
「何が!?髪型が!?」
「違う。あんなにいい子を信じてないところだよ」

その返事の意味を図りかねてどういう意味か、と聞こうとすると、店から別の少女が出て来た。

「骸さま…?」
「くっクローム!?」

小さな箱を抱えたクロームは、驚いたように大きな目を更に大きくした。
そのように彼女が表情を変えることは珍しく、骸は更に驚く。
2人がポカンとしている内に、雲雀は骸の髪を離した。

「ギャ!」

重力に従って地面に転がる骸を無視してクロームに話し掛ける。

「やぁ、終わったかい?」
「あ…」

クロームはこくりとうなづいた。

「そう。じゃあこれ連れてってくれる?」

これ、と言って指さされた骸は話について行けず、突っ込むのも忘れて雲雀とクロームを交互に見ている。
クロームはまたこくりとうなづき、小さな声でありがとうと言った。
そして、2人は帰っていった。
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