短編
□てのひら
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ただぼーっとしてた訳じゃない。寧ろ僕はイライラしていた。
机に置いた携帯をじっと見つめる。
たまにぱか、と開けてみたりもする。
やがて壁に掛かった時計が午後6時を伝えて、自分がどれだけ長い間それを繰り返していたかに気付いた。
仕方なく、僕は家に帰ることにした。
それにしても、携帯を見ているのに時間の経過に気付かなかったなんて。
結局来なかったメールと、それを期待していた自分に更にイライラする。
今日はゴールデンウイークの真ん中。明日はこどもの日―――僕の誕生日だ。
【てのひら】
我ながら女々しいと思う。
誕生日を…その…こ、恋人と過ごしたいなんて。
でも1年前、僕の誕生日を過ぎてから知った彼は『来年はちゃんと祝ってやる』って言ったんだ。
…なのに。
1ヶ月前にイタリアに帰ってから、一度も電話が掛かってこない。メールすらない。
いつもなら毎日のように鳴っていた携帯が、今は静かにポケットの中にある。
もちろん僕から連絡することなんてできない。誕生日に一緒にいてほしいなんて言ったら恥ずかしさで死んでしまう。
それになんだか催促してるみたいに聞こえるし、何より、仕事が忙しいのかもしれないから連絡はできない。
だから僕は毎年と同じように学校に行った。でもゴールデンウィークはどの部活も休みで、仕事も特にない。
結局、そのことを考えて半日が過ぎていったということだ。