短編
□チョコレート・ディ 前日編
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なんで僕がこんなことで悩まなくちゃならないんだ?
事のはじまりはさっきのスーパーだ。
夕飯の材料を買いに行くと、レジの近くに女の子が群れる一角があった。
その中に見覚えのあるイタリア人の少年がいた。
(誰だっけ…確か葉っぱみたいな名前…)
群れに近づくのは嫌だったので近付かないようにしていたのに、少年は僕に気付いてこっちに来た。
「あ、こんにちは!雲雀殿もチョコレートを買いに来たんですか?」
「…チョコレート?」
その時はいきなり何を言い出すんだろうと思った。
しかしよく見れば女の子が群れているところには様々なチョコレートが積まれていて、天井からは『バレンタインフェア』という看板がぶら下がっている。
「日本ではバレンタインは愛する人にチョコレートを贈る日だと親方様が言っていました!」
「…まぁ、そうかな」
女の子のイベントじゃなかったっけ、と思ったけど僕もよく知らなかったし、少年があんまり目を輝かせているから黙っておいた。
「雲雀殿はディーノ殿に差し上げるのでしょう?」
「は?」
さも当然と言われた言葉に思わず間抜けな返事をしてしまった。
「親方様はバレンタインのチョコレートは男のロマンだとも言っていましたよ」
「僕も男なんだけど、というか君も男じゃないの?」
「ディーノ殿も期待されているのでは?」
「え…」
あの人が?こんな行事に?
そういえば最近校内の服装頭髪検査に引っ掛かる男子生徒が多い。
あれはバレンタインのために目立とうとしていたのだとしたら、もしかしたら周りは結構盛り上がってるのかも知れない。
だとしたら、ディーノも…?
僕が一瞬うろたえたのを見逃さずに、少年は笑顔で僕をピンク色の一角に連れていこうとする。
「ほら、一緒に選びましょう!」
「え、ちょっと、いいよ僕はっ」
一刻も早くここを出よう、そう思って僕は少年の手を振り払って逃げた。