長編

□ひとめぼれ
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その日は綱吉がひとりで大きな街へ買出しに行く日だった。
今までは姉弟で行っていたのだが雲雀が「もう10代目なんだからひとりで行きなよ」と店から放り出したのだった。
多少の不安を抱きつつも、初めてではない道程に迷うことなく街に着くことができた。用事も手間取ったがなんとか済ませた。

さて、問題は帰りである。

ヴァレンシアから街への道程は遠い。帰りの分の馬車賃は持っていたが、弱気な綱吉はいつまでも馬車をつかまえられずにいた。声を掛けていいのか迷っていると他の客に先を越されてしまうのだ。
歩いて帰るには夜の山道を通らなければいけないが、もちろんそんな勇気もない。

うっかり泣きそうになったとき、誰かが綱吉の肩をポンとたたいた。思わず「ヒッ」いう声を漏らすと、その人物がクッと笑う気配がした。

「そんなビビんなって。男だろ?」


綱吉が振り返るとそこには、金髪の男が立っていた。服装からするとそこまで裕福そうには見えないが、男の綱吉から見ても整った容姿をしていた。なにより人懐っこそうな笑顔が警戒心を与えない。

「困ってんだろ。どうしたんだ?」
「あ、あの…」

綱吉が正直に訳を話すと男は笑ったが、最後に「どこの町だ?」と聞いてきた。

「ヴァレンシアですけど…」
「ヴァレンシア?それなら俺が送ってやるよ!」
「え!?」
「俺は隣街のアリカンテに住んでんだ。近いだろ?」
「で、でも…」
「心配すんな!攫ったりしねえって」
「いやいやそんなこと思ってないです!」
「なんだ遠慮してんのか?」
「そ、そりゃぁ…」


綱吉は困っていた。確かに送ってもらえるならとてもありがたい。しかし相手は初対面だ。信用していいのか分からないし、何より図々しいと思ったのだ。が。

「そんなこと気にすんなって!ほら行くぜ!」
「あ、え!?」

腕を掴まれて引きずられるように連れて行かれる。こうなったら、綱吉は思い切って男に頼むことにした。
ふと、男が振り返って綱吉に笑いかける。

「あぁ、俺はディーノ。よろしくな!」

綱吉はディーノの笑顔を見て、たぶん、この人はいい人だ、と思った。
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