Novel

□月下美人
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笑いあって、ひたすらに駆け抜いた日々が。
誰かに見守られて在ったものだと知らずに俺はただ無邪気だった。





本当にいきなりだった。
綱手の婆ちゃんが深刻な顔をして俺たち下忍を集めて話をしだしたのは。
何処か嫌な予感を抱えて俺たちは集まって、そこにシカマルがいないのを不思議に思ってた。
あいつは一人で中忍になったから、一人で俺がしたいような凄い任務こなしてるんだろうなあ、ずるいってば…とか半ばすねぎみの俺がいた。
だけど婆ちゃんから出た次の言葉は俺の予想外の言葉だった。


「お前たちは受け入れ難い話だろうと思う。けれど今回はそんなこと言ってられないんだ。」

婆ちゃんは悲痛な表情を見せて顔の前で組んだ手に力をぐっと食われた。
誰かが固唾を飲んだ。
そんな些細な音でも未だに覚えてる。
暫く間をあけて婆ちゃんは意を決したかのように顔を上げて言った。

「奈良シカマルは死んだ。任務に失敗し、殉職したんだよ。シカマルの遺体は残っていやしない。事実だけがただある。」
「……。」

自然と沈黙が周りを占めた。


「嘘だってば…。」


自分に言い聞かせるかのように呟く。
これは何かの冗談だろう。
シカマルはまだ生きてる。そう信じたかった。


けど何処を探してもいなくて、何処を行ってもシカマルの面影を探した。
何も残ってはいなかった。

いつか俺が勇気を出して化け物が――九尾が俺の腹の中にいることを言った、二人で良く遊んだ原っぱにさえも。
何も残っていなくて…。


ただあの時見せたシカマルの本気で怒った顔とそのあと俺にくれた優しい言葉と表情が……俺の記憶の中にあるだけ。




「自分を二度と化け物とか言うんじゃねぇ。他の奴らが言っても自分だけは言うな。俺はお前を化け物と思ってねぇし、ついで言うと九尾だって化け物と思ってねぇ。」
「……。」
「ナルト――頼むから自分のことを化け物と思わないでくれ。」

シカマルはまるで自分が言われたかのように悲しげな表情で


けれども一瞬、あの漆黒の瞳がくしゃりと笑ったものだから何もいえなかった。


「俺だけは裏切らないから。お前を必ず護る。
だからお前は何が何でも火影になって幸せになれ。」

真剣な眼差しで
シカマルは
俺をとらえた。

「…わかったってば。」

こくりと頷いて
心のどこかで火影になれないと思っていた不安が消えた。


シカマルがサボりでドベ2だっただけで、本当は頭がとても良かったのだとしても未だ中忍レベルの筈で。
でも俺を殺そうとするやつらは暗部クラスだっているというのを聞いたことがある。シカマルじゃあ暗部クラスは無理だとわかっているのに護るという言葉を素直に受け止めれた。

きっと俺は心のどこかで気づいていたのかもしれない。
シカマルが本当は強いかもしれないということを。

だけど言い出せなかったのは言ってしまったら、シカマルが俺の前から消えるような気がしてならなかったから。

そんなこと関係なかった。
だってシカマルは死んでしまった。

もう二度と会えない。
もし俺がシカマルの真実に気づいて、言い出せたなら何か変わっていたのだろうか。

中忍の任務で死ぬなんてないだろう?

馬鹿だった俺でも疑問に思うことだ。



そしてあの時婆ちゃんにシカマルが死んだと告げられてから、かなりの月日が経った。
俺はお前の死んだ任務の内容も、お前が暗部だったことも、何で俺が自分を化け物だと言ったときあんな悲しげな表情だったのかさえも……火影になった今だからこそすべてを知った。


すべて俺の為だった。


あいつが死んだのは俺のせいで。

暗部に入ったのも俺のせいで。

俺が自分のことを化け物って言ったとき、自分が言われたかのように悲しげな表情を見せたのも俺のせい。

シカマルは俺に護ると言うより前から、俺のことを護ってくれてた。
俺が無邪気に外を駆け回っていたとき、一体何人のやつに俺は狙われて……そしてシカマルは一体何人のやつらの血に染まったのだろう。
暗部に入ったのも最初は確かに俺の為ではなかったのかもしれない。
けれど、きっとシカマルは暗部に入ってこの里の事実に気づいて、同時に俺の存在にも気づいた。
そうやってシカマルは俺の為に暗部総隊長になって、暗部に命令をする。

「うずまき ナルトに近づくな、傷つけるな、殺すな。
もし、これに違反する者が在れば、俺はソイツを直々に、実験台にしつつも着実に、かなり苦しめながら殺す。楽に死ねると思うな。」

こんな言葉をシカマルは残してた。
シカマルの今までの生き様が一つに纏められた文献があるものだから最初はびっくりした。
けれどコレは、爺ちゃんと婆ちゃんなりの、シカマルにたいする愛情のカタチ。
誰にも気づかれずに、散ってしまうであろうシカマルをどんなカタチでも、残したかった、誰かに知っていて欲しかった、爺ちゃんと婆ちゃんの願い。
そしてその文献の存在に気づいていながら、燃やすことをしなかったシカマル。
彼も叫びを上げていた。
気づいて―と。
俺が火影になっていつか自分の本当の存在に気づくことを望み、拒みの繰り返し

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