Novel
□泣かない
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泣かない。
誰が涙という弱さなど見せるものか。
愚かな里人に己の弱さなど見せるというだけで吐き気がする。
†泣かない†
それは突然ではなかったと言えば嘘になるけれど、前々からこうなることがわかっていたからこそ悲しみも何も持ち合わせてなどいない。ただ最初から諦めている自分に対して怒りを向けるだろう相方に対して胸が痛むだけだ。
ずっと一緒
そう約束を交わした。
それは誓いにも近く、俺の今は痛む胸の中でも残っているままだ。
約束……守れそうにない、と溜め息を落とす。
瞼を閉じれば思い浮かぶアイツの顔。 黒い闇の色をした髪と黒耀石の瞳は俺の大好きな色で。
名前を呼べば優しく目を細めてどうした?と気にかけてくれるアイツが大好きで、頭を優しく撫でてくれる細い綺麗な指も好きだった。
手放したくなどないのに。ずっとアイツに囚われていたかった。
今日は最期の日ではない。
けれども別れの日だ。
別れの一言も言わずに俺はなすがままに連れて行かれ囚われている。ぼーっと窓もないので壁を眺めているだけ。ふいに壁が幻覚を見せて今一番会いたい人がいた。本物ではなく偽りだというのに、わかりきっているのにひたすらに見入る。
「…シカ……。」
ぽつりと名前を紡ぐ。
ああ、自分はまだ彼の名前を忘れてなどいないのだ安心する。
「ナル。」
この優しい声音も忘れてはいない。優しく目を細めて微笑みながら俺を見守ってくれる表情だって忘れてなかった。
「シカ……会いたいよ。シカ、シカマル。」