* If *
□If
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第三章
ふっと意識を取り戻す。気づけば俺はソファに座っていて、目の前には、見慣れたはずの自宅の風景が広がっていた。
数秒間考えてから、慌てて周りを見渡す。ここは俺の、一人暮らしの家…?
「あーあ。ほんっとダメダメだね〜亀ちゃんは。」
急に明るい声が響いて少しびくっとなる。声の主の方向を見やるとやっぱりあの、女の子だった。同じような姿勢でやはり、椅子に腰かけてなんとも渋い顔をしてこちらを見ていた。
「何、今までの…?…夢?」
無意識に両手を見つめながら問いかけた。確かに俺は、10年前に戻り、その生活を過ごしていた、筈だったのだが…。そう思いながらも何が本当で何が夢なのか、分からなくなる。だってここは確かに“現在”だ。あの頃はこんなマンションには住んでいない。
「ぶっぶー。夢じゃありませーん。でも、亀ちゃんはなーんにも変わってないし、反省もしてないってことが分かりました〜」
手でバッテンを作りながら、まるでダメな生徒を叱る先生のような顔で女の子は言った。俺はその言葉に、胸が刺すように痛んだ。
“何も変わってない”
確かにその通りだ。この10年の間、こういうところがダメなんだとか、何であんな言い方しかできなかったんだろうとか、考えたことは沢山あった。大人になった今ならあんな態度も、言い方もしないのになんて思っていたけれど、それはただの幻想だった。
俺は何も変わっていない。変われていないんだ。
「Aがあんな風になったのは、亀ちゃんにも原因があること、分かってるぅ?」
ドキリとした。そんな風に言われていたことは知っていた。けど、もうどうしようもなかったんだ。沢山の事が積み重なってできた、結果だった。そう受け入れるしかなかった。
「それなのにさ〜。
はー、そんなんじゃ、過去に戻った意味ないじゃん。ほんとに変える気あった?」
ズバズバと言われるがままだ。一回り程違う女の子に。普段なら強気で言い返すところだが、今はそんな元気も資格もない。
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