* If *
□If
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第二章
「じーん!行こうぜ〜」
おー!と元気よく、にかって笑って答える仁にも、俺の変声期の少し変な声にも、久しぶりに乗る電車にも、もうすっかり慣れていた。
最初はうっかり、仁のことを赤西って
呼んでみんなに変な顔をされたので(というか主に仁に急に何その呼び方―!と抗議されたのだが)急いで仁、と呼びなおす。
10年ぶりに呼ぶその呼び方は、そのブランクすら感じずに違和感なく馴染んだ。ずっと
呼んでいたのは事実なんだから、当たり前なのかもしれないけど、なんだか少し嬉しくなる。
「お見舞い、何がいいかなぁ?」
「漫画かゲームでいいんじゃね?笑」
「あ、俺も思った!笑」
ぎゃははと笑い合いながら、電車に乗り込む。くだらない、些細なことでさえいつまででも笑っていられたこの頃。楽しかった。嫌なことがあってもすぐに忘れられた。
姿が見えない田口は、怪我で入院しているということで、あぁ、あの時期か。と心の中で納得しながらお見舞いに行こうと仁を誘って、来たのだった。
雑誌や漫画を大量に持って行ってやると、田口はいつものように満面の笑みでありがとうー!とお礼を言っては、しきりに仕事の様子を聞きたがった。
田口も、焦っていたのだろう。それは後に雑誌の取材で知ることになるのだけど、この頃は田口があまりにもにこにこしていて、そして俺は何も考えていない子供だったから、全く気付かなかったんだ。
「田口。お前がいないと、KAT-TUNじゃねーよ。早く治して戻ってこいよ、俺ら全員、待ってるから。」
そう俺が言うと、田口の目から涙がぼろぼろと零れ落ちた。
大げさにびっくりする仁は、隣でお前、何いきなり!?とあたふたしている。
そうか。こんな当たり前のことすら、伝えられていなかったんだな。
ごめん田口。そんなにも不安にさせてたなんて。
そっと心の中で謝る。
田口は、だってだって〜、嬉しかったんだもん!と泣きながら笑っていて、その姿を見た仁もバカじゃねぇの、なんて言いながらも思わず笑っていた。
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