お題

□壊したくなる5つの衝動
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あまりにもうつくしすぎる、





パツリという軽い音。
灯火の炎が翻って、幾つもの菱の形の破片を照らした。
嗚呼、と。悲しそうに声を上げた貴方が、破片に触れて。
象牙色の指先に、まろい紅玉の雫。
咄嗟に口内に含んだ貴方の指も、舐め取った血も、酷く甘くて。


『佐助、佐助、びーどろは、どうして割れるのだ?
何故、こんなにも脆いのだ?』




嗚呼。
俺は・・・あの時、何と答えたのだったろうか――?






「貴方が好きです」

言葉にした瞬間、涙が溢れた。
いつも、口煩くしてるけど。
いつも、小馬鹿にしたような態度を取っちゃってるけど。
ずっとずっと、貴方のことが好きだったんです。

「一息で言い切れちゃうことなのにさ、なんで起きてる旦那に言えないんだろうね?」

なんで、だなんて。言えるわけが無いじゃないか。
貴方は、小なりとは言え小県の主家真田の御次男様で。
俺は、出自の卑しい――しかも忍なんて存在で。

「言えなかったけどさ、ずっと好きだったんだ。
堪らなく、好きなんだ、あんたのこと・・・」

眠る主のその髪を、さらりと撫でる。
撫でられた主人は、気持ち良さそうに口の中でむにゅむにゅと呟き、首を傾げるように動かして俺の掌に頭を擦り付けた。
彼特有の小動物めいた仕草に、胸の中が愛しさでいっぱいになる。

起きている旦那に、こうできればいいのに。
愛を伝えて、甘く触れて。
・・・けれど、そんなことはできはしない。
行動に移してしまえば、どうなるかわかっているのだ。
何かが壊れるなんてことは、わかってる。

愛しくて、愛しすぎて。
拒絶されたりしたら、俺は間違いなく旦那に酷いことをしてしまう。
万が一、受け入れてもらえたとしても――俺は、旦那には酷いと感じることをしてしまうだろう。
そして俺は、旦那を壊してしまうのだ――受け入れられようが、受け入れられまいが。

だから俺は、このままでいなければならない。
眠っている相手にしか想いを吐露できない臆病者でいなければならないのだ。

「さ、すけ・・・」

不意に名前を呼ばれてどきりとするが、その安らかに緩んだ表情に、それが寝言なのだと理解し、ほっとする。

「び・・・ど、ろ・・・」

びーどろ?

その言葉に、思い出す。
この人に、涙の潤んだ目で尋ねられたことを。

『佐助、佐助、びーどろは、どうして割れるのだ?
何故、こんなにも脆いのだ?』

俺は、あの時・・・そう聞かれて、一体何と答えたのだった?
貴方の言葉も、悲しげな表情も、血の味も――全て覚えているというのに、自分の言葉と行動については、酷く茫洋として思い出すのに苦労する。

俺は、あの時・・・あの時・・・

「旦那・・・びーどろはね、綺麗だから脆いんですよ。
脆いから、すぐに割れてしまう・・・」

また、さらりと主の頭を撫でる。
そのまま頬を撫で、緩く微笑みの形に結ばれた唇で指が止まる。

――綺麗なものだから、大切にしたい。
けれど、触れたくて堪らない。
――行動を起こせば壊してしまうと、わかっているのに?
わかっているというのに、折に触れて――壊してしまいたく、なる・・・。




『綺麗なものは、すぐに壊れてしまうんですよ――』

そうだ思い出した、俺はあの時そう言った。
旦那どころか俺ですら、まだ子供と言って過言ではないほど昔の頃だ。

 
そうだ。
俺は、そんなに昔から・・・彼を大切にしたいと思いながら、心のどこかで滅茶苦茶に壊してしまいたいと――そんな衝動を抱えていたのだ、ずっと。









後書き
 ネクラな佐助になった(爆
何だかありふれた展開になりかけたので、大幅修正したら・・・今度は、何だかよくわからないことになりました(涙
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