お題

□壊したくなる5つの衝動
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微かに笑んで、立ち去る足音




己の主ですら、歳の離れた弟のように思うことがあるのだから。
主よりさらに歳若く、また容姿も性格も幼いこの賓客は、自分にはどうしたって子供にしか見えない――小十郎は、そう一人ごちる。


主の賓客――真田幸村は今、あどけない寝顔を晒して静かに眠っている。

甲斐からの長旅で疲れたことに加え、多忙な政宗が政務を終えるのを一人で待っていたのだ。
疲労と退屈で眠くなりもするだろう。


小十郎は、勧める相手の眠ってしまった菓子に、そっと埃除けの薄紙をかける。
これは、小十郎が誰か――例えば主――に命じられて持ってきたものではない。
幸村の傍らの盆には既に、茶と食べ終わった団子の串が置かれてある。
だから、この追加の饅頭は、誰に言われるでもなく小十郎が自らの意思で用意したものである。


――態々、何故?




「・・・何故、なんだろうな?」





呟いて、蹲るように眠る子供に目を向ける。
伏せられた睫が意外と長く、艶めいて見えたそれに、一瞬どきりとする。
嗚呼。




「何だってんだろうな・・・」





伸ばした、手。
無骨な指が、子供の滑らかな頬に触れる。


だって。
何故も何も、初めてこの存在を知った時から、ずっと――触れたかった。



触れて、そして、優しく抱き締めて。
荒々しく、抱いて。
自分だけのものに――!




「・・・ッ」



――何を、考えた?
こんな子供に。
・・・壊すつもりか?真田幸村を?


それにこれは、賓客という言葉でのみ括れるものではない・・・主の、想い人なのだ。
たとえ、片恋であろうとも。
否、だからこそ、己はこの子供と主との仲を取り持つ方向に動かなければならない。
真田幸村という存在も、己と主との信頼関係も、壊すわけには――!




「壊すわけにゃ、いかねぇ・・・いかねぇよ・・・」





眠る子供――真田幸村の肩に自分の羽織を掛け、小十郎は客間を恭しく退出する。
・・・全てを壊して想う者を手に入れたいという、このどうしようもない衝動が、これ以上膨れ上がりはしない内に。










静かな部屋。
一人が退出して、一人が残された部屋で。
残された一人が・・・眠っていたと思わせていた一人が、ぱちりと目を開ける。




「――壊して下さったとて、良う御座いましたのに・・・」





けれど。
彼はまだ、この想いの名すら、知らない。


ただ、正体不明の衝動、と。








後書き
 えーっと、こじゅゆきは書くの初めて、だっけ。
小十郎は、忍ぶ恋が似合いそうだと思います。
佐助と並んで、忍ぶ恋二大巨頭(何だそれ)。
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