お題

□壊したくなる5つの衝動
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逸らした視線の行く先




いつもなら、膝を撫でるとか袷に手を突っ込むとか不埒なまねをする度に、幸村は憎しみすら籠もった激しい目で睨み付けてくる。


いつも。
――それは、昨日以前の“いつも”の話。






今は、俺に組み敷かれたまま、あらぬ方向を見遣っていて――。


「Hey, どうした幸村。・・・昨夜のことでも、思い出したかァ?」

「・・・ッ!」


幸村が目を逸らしたまま、細かく震えた。


「怖かったのを、思い出したか?
痛かったのを、思い出したか?
――四つん這いで鳴いたことを、思い出したか・・・?」

「こ・・・っの、外道・・・ッ!!」


叫び声でも、悲鳴でもない。押し殺したような、声。
突き刺さるような声の刃は俺に向けているくせに、その眼差しだけはやっぱり俺を見ようとはせずに。


「今にも泣き出しそうじゃねぇか。・・・なぁ?」

「は・・・離せ、離せ・・・ッ!!」


もがくのを無視して、こちらを向けとばかりに幸村の頭を掴んだ。
強く、指を食い込ませるように力を込めると、幸村が苦しげに呻いた。


「――アノ時みたいな声だなぁ?・・・なぁ?」

「ぅっ、ううぅ・・・っあ」


苦痛から逃げようとでもいうのか――幸村が、涙の滲んだ目を閉じた。




幸村は結局、どうしても俺を見ることはなく。


穏やかな眼差しが向けられないならば、もう怒りでも良いと。
そう思って手に入れた筈なのに、何よりも望んだ視線は、ただ俺をすり抜けて遠いところへ向けられる。





後書き
 慕ってもらうことは、もう諦めた。
もう憎しみでも構わないと――そう思ったことすら、叶えられない。

政宗様は、”様々なことにおいて、やり方のマズい人”だと思っております(何)
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