お題

□思い悩む10題
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繋ぎとめるもの




投げ込まれたのは、石畳の牢だった。
それ以外は、わからない。
剥き出しの肌に触れる感触――そうして感じられるもの意外、判断することはできない。

両の瞳は――いまだ焼け付くような痛みを伴い、瞼を開くことさえ叶わない。
触れて確かめようにも、手も足も自由は利かず。


あれから。
何日経ったのか。

己が時間の経過の認識を如何に外界の光に頼っていたのか――それをまざまざと思い知らされる。



「寝てンのか?」


聞き覚えのある声だ。
けれど、どこで聞いたのか・・・。
聞き覚えはあっても、それは耳に馴染まない。

寝てなどは、いない。
ずっと瞑ったままの眼裏で――けれど己は、一睡もしなかったような気がする。


「起きてンだろ・・・っつか、全然寝てねぇだろ」


戦場で一騎打ちをした相手の声だと・・・漸く気付いたのは、遅かっただろうか。


「――なんで、食わない?」


――そういえば、全く食べていない。
なにも、飢えによる緩やかな自決を選んだわけではない。
己は、生きることを選択したのだから。
再び将として働く為に、泥をすすってでも生き延びねばと――。

けれど。


「・・・腹が、減ってない」


眠ることを拒否した体は、食さえも拒んでいるのだろうか?
生きることを切望しながらも、もしかすると己は――生きることを忌避しているのだろうか?
だとすれば・・・その要因は、このいまだ開かぬ目であろう――。


「――死ぬのか?」


まさか。
それがどれほどの苦渋に満ちた道だとしても、生き延びてみせる。
その思いだけが、俺を生へと繋ぎとめているのだから。

眠りと食を拒む体に辟易するが、これも時間が解決しよう。


「・・・がっ・・・!」


顎を掴まれ、何かどろどろしたものを口内に流し込まれた。
反射的に吐き出そうとした時にはもう口を閉じられ、咽喉を撫でられて嚥下させられる。


「毒なんざ入っちゃいないぜ。ただの粥だ」


少しずつ椀の中の粥を流し込まれ、結局一杯分飲み込ませられた。


「Ah, 食ったら、次は眠らねぇとな」


そのようなことを言われても、ちっとも眠くないのだ。
寧ろ、無理矢理粥を食べさせられたせいで、意識はいつになくはっきりとしてしまっている。


「安心しな・・・ちゃんと眠らせてやっから」


その言葉の真意を尋ねることもできないうちに、鼻と口に押し当てられた妙な匂いの滲みた布に、意識が遠くなった。



安らか・・・とは言えないが、概ね不快ではない眠りが訪れる。

眠りと、食。

この男は、俺を今生に繋ぎとめようとしているのだろうかと――そこまでしか、考えることはできなかった。
 




後書き
 漸く、絡んできました。
幸村の精神状態が、相変わらずヤバそうで何とも・・・(爆)
友情風味にもって行きたかったのですが・・・無理そうだ・・・。
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