雨色
□秘密
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現世がオレンジに包まれる中、レイは髪を遊ばせるように屋根に座っていた。
伝令神機に届いた虚の出現時刻より少し早い今、彼女は沈みゆくオレンジに思いを馳せる。
「厄介者…か」
誰にも捉えられる事のない独り言。
ただオレンジだけが聞いているかのように揺らいだ。
pipipipipi―――
伝令神機からの音を合図に瞬歩で風を切り走った先には虚。
住宅街のそこは数人の通行人がいた為、当然巻き込むわけにはいかないと
虚の背後へ降り立つと同時に斬りかかろうと斬魄刀を振り上げた。
…本当ならこの一太刀で終わっていたはずだったのだ。
「おまっ!何やってんだ!?」
この声にレイが反応さえしなければ。
突然の叫び声に見た姿は夕日と間違わんオレンジ頭。
人間に死神の姿など見えるはずがないのに、彼は確かにレイを見ていて…
その声に、その色に、その姿に…心は動揺し体は硬直してしまう。
霊圧が揺らいだせいでレイの存在に気付いたのだろう虚が振り向き、力の入ってない刀を弾いて己の爪をくり出した。
咄嗟に刀を持っていない左腕を盾のように構え、遅れながらも右手の刀を振るう。
ザシュッ…
重なる身切り音のすぐ後に耳をつんざく虚の断末魔が響き…
…ポタポタと地面を赤く染めるレイの血。
しかし彼女は傷の痛みも感じず、虚の昇華される様も見ず…ただただその瞳を少し離れて立つ彼へ向けていた。
そして、やっぱり彼の瞳はレイに向けられていた。
「お、おい、大丈夫か!?何でいきなり血が…」
心配してか眉間に皺を寄せる彼が駆け足でレイに近付いてくるのを、彼女は瞬き一つせずに見続ける。
そして彼が彼女の目の前に現れ傷付いた左腕に手を伸ばそうとした時、漸く反応を見せた。
「…しょ…う…っ…」
小さな小さな声でそう呟いた彼女の目からは、大きな大きな雫が零れ落ちる。
そして、レイの思考回路がショートを迎えそうになった時…意識が遠退いた。