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□雨月様より(剣薫小説)
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please say yes


 休日だというのに、薫は出かけもしないで、ベッドでごろごろと横たわっていた。
 先程まで感じていた、体を狂わせるんじゃないかという程の快楽の波は、いつの間にか静まっていた。


 昼間だというのに暗いと思っていたが、それもそのはず、雨が降り始めたらしい。一糸纏わぬ姿のままで窓の外を眺めていたら、台所からジーパンを履いただけで上半身は裸の男が現れた。薫と二週間前から一緒に住んでいる男で、名前を剣心と言った。
 人畜無害な笑みを浮かべた彼の右手には、水の入ったペットボトルがあった。それを見せながら、剣心は薫に言った。


「喉、乾いたでしょ」
「勿論。カラッカラよ」
「薫、よく鳴いたからね」
「誰のせいよ」
「俺のせい?」
「他に誰がいるの?」


 ベッドに横たわったまま、薫は水をちょうだいとせがんだ。すると、男はペットボトルの蓋を開け、水を自分の口に含むと、そのまま薫に口づけた。


「ん……」


 流し込まれる水を嚥下すると、次に口内に侵入してきたのは剣心の舌だった。薫は、それを当然のように受け入れる。

 いつの間にか、剣心の腕に自分の腕を絡ませながら、薫は自分から剣心の舌を求めた。負けじと剣心も薫の舌に絡ませるため、自ずとキスは激しさを増してゆく。


 唇を名残惜しげに離すと、二人から思わず甘い息が漏れた。


「また、するの?」
「うん。その気にさせられたから」
「私のせい?」
「うん。薫のせい」
「剣心が勝手にその気になったんじゃない」
「よく言う」


 艶っぽい笑みを浮かべ、剣心は再び薫に口づけた。
 凪いでいた薫の体に、再び波が戻ってくる。



 剣心との付き合いは、もうすぐ一年になる。最近になって同棲を始めたのは、互いの仕事で会えない日が続いたことを憂いた彼が提案したからだ。

 こうして二人の休みが重なるなんて、滅多にないことだ。折角だから出かけようと薫は提案しかけたのだが、朝から剣心が薫を解放してくれないため、その気も失せてしまった。
 雨が降ってきたため、出かけなくてよかったと薫は思うのだが。




「ね、薫」
「ん、何、剣心」
「中に出していい?」
「えっ!? ダ、ダメっ!」
「なんで?」
「あ、あっ、なんでって……あぁっ」


 なんでって、妊娠しちゃうかもしれないでしょ、と言おうとしたが、剣心の攻めにその言葉は声にならなかった。


「いいじゃん、寧ろ作っちゃう方向でいこうよ」
「な、にを……」


 どういう方向よ、と言おうとしたが、それもかなわなかった。


「責任、とるからさ」



 それが剣心の求婚だと気づいた薫は、しかし次の瞬間には考える余裕をなくしていた。







「信じられない」


 先程、剣心が持ってきた水を一気に飲んだ薫は、開口一番にそう言った。

 薫にも、一応思い描いていたプロポーズのされ方というものはあった。それは、断じて今のようなシチュエーションでないことだけは確かだ。


「だって、俺と薫の子が急に欲しくなったから」
「こういうことに関して、思い立ったらすぐ行動するのはやめてちょうだい! 計画性ってものがないの!?」
「明るい家族計画なら立ててるよ。取り敢えず、一姫二太郎って感じかな」


 底抜けの気楽さを剣心に感じ、薫は怒る気力も失せてしまった。
 何を言っても無駄だと悟った薫は、剣心にもたれ掛かり、こう言った。



「ちゃんと責任とってよね」
「勿論」



 にっこりと笑う剣心を見て、薫はつられてにっこり笑う。そしてそのまま、睡魔に身を委ねた。


 雨はもう上がっていたが、眠りについた薫には雨上がりの匂いではなく、剣心の匂いだけを感じていた。








【end】






あああ!もう悶える…!
フリーというお言葉に甘えてかっさらってきました!
素敵すぎる!!!

雨月様ありがとうございます!

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