もらいもの

□桜井くぅ。様より!
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ほんの少し、

あと数ミリでさえも近付いたら

聞こえてしまいそうな


そんな、胸の高鳴り。









*1ミリの境界線*









『どうして貴方は此処にいるの?』


金属の擦れる音や削る音が響く様々な部品や機材が乱雑に置かれている部屋。
そんな中に不意に小さく響いた一人の女の声によって金属音がピタリと止んだ。


「…なんでだっけ。まぁとりあえず入江正一も居るし楽しめそうだったからじゃ…」

『そうじゃなくて』


女は顔を歪ませた。作業を止めて女をジッと見つめる男は首を傾げてからゆっくりと立ち上がった。


「ウチがアンタの部屋にいたらダメなのか?」

『……っ!』


どうして私の部屋にいるのか

そういう意味で聞こうとしてたのに。
目の前に立つ怪訝そうな表情から微笑に変わった男の顔を見て

嗚呼、コイツ確信犯だ

と少し遅めの確信をした。



「距離を縮めに来た」

『……はい?』


男はポケットから棒付き飴を取り出し口に含み、一歩足を踏み出した。
ドンドンと男は女に近づいて行く。女は無意識のうちにも少しずつ後退りをした。


「アンタはいつどこにいても、自分以外の他人に心を許していない」

『…ゃ……っ』


真っ直ぐ自分を見つめて向かってくる男に自然と体は小刻みに震え、声さえもが揺らいで上手く言葉が発せられない。


「入江正一にだって白蘭にだって…勿論、ウチにもな」

『………』


男…スパナの言う事は全て事実で。
女はただ唇を噛み締め顔を歪ませるだけだった。

と、後退りする途中女は機材に足を躓かせて尻餅を着いた。その間にもスパナは近づいて行く。



「誰も信じない」

『…っないで‥…』

「誰も好きになったりしない」

『…来ないで!』



女の涙ながらの叫びにピタリと男は足を止めた。



『これ以上…私に構わないで……』



スパナの言っていた事は確かに全て図星だった。――だったが、

綺麗事ばかりを並べる人間や仮面の笑顔を作る人間とは違い、初めて私を特別扱いをしない

そんな彼を―――

愛してしまったなんて



そんなこと、この胸の高鳴りを聞かれたらすぐにバレてしまうから。
あと1ミリでも近づいたら、聞こえてしまうから。

嗚呼、だから、




『これ以上…私に近づいて来ないで……っ』


この気持ちは、誰にも気づかれちゃいけない。
愛なんてものは、人間を弱くするだけで。

そう、私には不要なものだから。



「………」


スパナは再度首を傾げながら首筋を指で軽く掻いてからゆっくりと口を開いた。


「アンタの境界線は、今ここにあんの」


他人と自分を分ける線ね、とつま先でトントンと足元の床を叩くスパナ。
その口からは飴は出されていて。


「あと1ミリ、ウチがこの境界線を越えればアンタに近づたことになる」

『………』


まるで今から行きますよ、と宣言されているようだった。
しかし女はただ黙り込むことしか出来なくて。

男は黙り込む女を見てから静かに一歩踏み出した。



「ハイ、侵入成功ー」


そして、そのまま固まる目の前に力無く座り込む女の体を優しく抱き締めた。
その途端、女の瞳に溢れた涙は頬を次々に流れ出し、スパナの繋ぎを濡らしていった。

「…アンタのこと、機械の次に好き、」


かもしれない、と付け足し言うスパナに思わず女は笑みを浮かべた。


『…何、それ』


そう呟く女の顔からも自然と笑みが零れていた。



fin.
ずっと守り抜いてきた
たった、1ミリの距離
それを越えれば
想いは繋がった。



2008/05/06
桜井くぅ。

─・─・─・─
相互様の桜井くぅ様のHP200000HIT記念フリー夢です!
フリーだったのでもらってきちゃいました。
文才のオーラがぷんぷんしますね・・・
星羅の尊敬する方です。
桜井様のHPはリンクにあるのでそちらからどうぞ。

桜井様、これからも頑張って下さい!


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